「黒夢」

著者:Kai
修正・校正:ダイス

★オープニング
 ★第一話 水の小さな女の子
  ★第二話 闇の格闘剣士
   ★第三話 光をまとう少女
    ★第四話 眠れる真の力
     ★第五話 漆黒
      ★エピローグ

オープニング

 古くそびえ立つ石柱。
 古の王が住居していたと思しき古城。
 女神を崇めるべく建てられし神殿。
 寄せては返す波の音は語る
 栄えと滅び、そして静寂
 ここは全ての始まりの地
 人はその島を『閉ざされた島』と呼ぶ

 薬草売りに体力はあまりない。
 しかし、イリスは、根性を振り絞ってその男の人を運んでいた。
 カーミラに会いに行った帰りに海岸に寄ってみるとこの人が倒れていた。
 たぶんまた漂流者の一人であろう。
 この『閉ざされた島』ではポツポツとあることだ。
 荷物もその近くにあった。
(この・・・重いな・・・・無視すればよかったかな・・・・)
 などと思いたくなってくる。
 そのうちに街が見えた。イリスは入り口に背負ってきた人をおいて、パブまで走る。
「ロックさん、手伝って下さい」
 そう言って詳しく事情を説明、ロックは漂流してきた人を担いで、イリス宅まで上げる。このような事件がまれにしか起きない平和な街だった。

 夢・・・・・だと思う。夢を見ている。
 ・・・・・・・漆黒の夢を・・・・・・・。
 漆黒は問い続ける
 汝は何を願い何を望む?
 汝は手にしたその力を・・・・・・・
 誰がために使う?
 全ての答えは汝の内に・・・・・・・・・。

 人々は気づかない。
 今、世界は幾度目かの転機を迎えた・・・・・・・・・・。

第一話 水の小さな女の子

 目が覚めるとそこには天井があった。
 なぜこんな所に?と思っていると視界の横から顔が出てきた。
「お目覚めですか?」
 女性が心配そうにこっちを見る。オレは聞いた。
「ここは・・・・・・?」
 すると女性は言った。
「やはり記憶はないんですね、まず私の名前はイリス、薬草を売って生活しています」
 イリスはそう始めて、説明した。
 自分が海岸にて倒れていたこと。
 それをイリスが苦労して街まで運んだこと。
 ここに来た者は皆、記憶を失っているということ。
 ここは『閉ざされた島』であること。
「あなたも漆黒の迷宮を目指すのですか?」
 ここに来た者は皆『漆黒の迷宮』という言葉を知っていてそこに向かうということ。
 現に自分も漆黒の迷宮に向かうために閉ざされた島に来たと思っていること。
「あなたには生きて帰ってきてほしいです。人が死ぬのは悲しいですから・・・」
 そう締めくくってイリスは外に出ようとした。しかし、振り返って、
「そういえば・・・・どうお呼びすればいいですか?」
 名前のことを聞いているのだろう、自分の荷物を確認(何を持っていたかなどは覚えていないので、何を持っているか見ている)していたオレに聞いてきた。
 ナイフにプリントされている文字(メーカーのことだが彼は知らない)『リト』に目がとまった。
「リトって呼んでくれ」
 そういうとイリスは「良いお名前ですね」といって部屋から出ていった。

 街に降りてみると(家から出るときに店番しているイリスが「もう大丈夫ですか」と心配そうに聞いてきた)いろいろなものがあった。パブで教えてくれた戦いや逃げのテクニック、隠し部屋のこと、武器屋での開かない宝箱、図書館で寝込んでいる女性ユーナ、トラップと姉ユーノと本のこと、そしてゲートの前におじいさんがいて声をかけられた。
「そこの若いの、ゲートクリスタルを持っていないかね?」
 そう言われて、ふとさっき確認した荷物の中にそれらしきものがあったので取り出す。
「おお、これじゃこれじゃ!!」
 そういってひったくるようにクリスタルを取りゲートにはめ込む。
 すると光り出して、それが収まり機械的な光が流れる。
「これは、アストラルゲートといっての、ゲート間を移動出来るのじゃ」
 そう説明しておじいさんはこう言った。
「そうじゃ、ゲートのお礼にいいものをあげよう、後で骨董屋まで来なさい」

 骨董屋には文字通りいろいろな古い物が置いてあった。
 守護石や腕輪等・・・・・・・。
「おお、来おったか、まあここに座りなさい」
 そういっておじいさんは、スカイブルーの装飾がついた壺を取り出した。
「こういう壺にはの、魔神が入っておるのじゃ」
 魔神は契約することによって主に多大な力を貸し与えてくれるという。
 契約には何か物が必要だったり、戦って勝たなければいけないらしいが、まあ真相は謎だというらしい。
「へぇ、こんなに立派な物を・・・いいんですか?」
 そういってオレが開けようとすると、
「ここで開けてはならん!!」
 とおじいさんが叫んだ後に、しまったという顔をして、
「いや、なんじゃ、魔神は必要なときに召還するものじゃ、・・・・別に怖いわけではないぞ、何じゃその白い目は・・・・」
 白々しい、ようはオレにこの壺を押しつけたいらしい。
「うおっほん、まずは『王の墓所』というところに行ってみなさい」
 街の南の方に行くと丘があり、そこに立つ女神の石柱の下に王の墓所があるらしい。
 早速そこに向かうことにした。

 初めは、ナイフで相手をしていたので苦戦したが、酒場で教えられたように隠し部屋に入って、そこにあった武器、防具を装備したりして楽勝に勝つことが出来るようになった。
 先に進み、偽の墓の周りを見、少し戻って隠し階段を下り、広い部屋に出たとき・・・・・。
「シンニュウシャヲハイジョセヨ、クリカエス・・・・・・・・・」
「まずい!!」
 迫り来るガーディアンを避け、斬る。
 曲がり角を曲がる・・・・・。
「しまった・・・・・」
 そこは行き止まりだった。横と後ろは壁、前はガーディアン、しかもたくさん・・・・。
 戦法を考える。ふと壺のことを思い出す。
「頼むぞ・・・・」
 そうつぶやいて壺を開けた。
 すると、煙が上がり、そこから壺が消え、壺の装飾と同じスカイブルーの髪が見えた。
 少女だった。
「みぃ!!」
 少女はいきなりそういった。現在の状況を解っているのか?
 ・・・・・200%解っていないだろう。
「みぃ?」
 オレは反射的に疑問詞で返す。
 すると少女は、
「みぃみぃみぃみぃみぃ〜!!」
 そういってオレに抱きつく。
 ガーディアンがオレと少女に殴りかかろうとするのには気がついたが、何しろ少女にだっこぎゅ〜されているので身動きがとれない。
 やられる!!そう思った刹那、周りに鋭い風が流れた。
 ガーディアンどもは吹っ飛び、後ろの奴もまとめて壁に衝突して動かなくなった。
「みぃ、ファルなの〜よろしく〜」
 スカイブルーの髪の少女はそういって顔を上げた。
(これが・・・・魔神?)
 想像してたものとは違う・・・・・。
 この未だオレにだっこぎゅ〜をしている少女を見てオレはため息を吐いた。

 ファルの力はすごかった。風を起こし、水を出し、あげく、
「ほんとのファルはもっとすごいんだよ〜」
 と言われて軽い敗北感にさいなまれた。
 仕掛け扉を開けて中に入る。
 たぶん本物の王の墓なのだろうか、そこには大きな棺が一つあり、その中に書物が一つだけ入っていた。その奥の宝箱に、金と書物『龍になった少女』が入っていた。
 書物にはさして目を通さない。少し戻ったところにゲートがある。もう時間的にも深夜だろうし、ゲート前で一晩明かしてからイリス宅に戻ろう。
 そう思ってゲート前まで戻った。

 野宿でファルが再びだっこぎゅ〜をしてきてそのまま寝てしまった。
 ・・・・・その時間三十秒・・・・・。
 オレは甲斐性なしというわけではないと思うが、記憶を失っているので、魔神の少女をどうこうしようなどとは思わない。というか知らない。
 オレは書物に目を通した。
 魔法関係の本と、龍になった少女。
 初めに魔法関係の書物を読み、次に『龍になった少女』を読む。
 魔法関係の書は、基本的な魔法の知識と、魔神召還について。これは、おじいさんが話した内容とほぼ一緒で、全て読めた。
 龍になった少女は、ある少女が病気になった父を助ける話らしいが、読んでる途中に眠ってしまったらしい。

 夢を見た。漆黒からいきなり光り輝く青、・・・・女神の石柱とその向こうの海。
 石柱はいくらか新しい、たぶん今よりもだいぶ昔のことだろう。
 一人の少女が石柱の前に来た。その少女は、ファルにそっくりだった。
「女神様、父の病気は、険しくなる一方です。私は今がとても苦しいのです。授かった命を無にする無礼、お許し下さい」
 しゃべり方が普通なのでたぶん別人だろう。そうリトが思っていると、いきなり海岸まで飛ばされた。先ほどの少女が目の前で壺を開けようとしていた。
 中から巨大な魔神が出てきた。
 何か会話をしている。すると、少女が光り出してそして光が退いた後に少女は急いで走り出した。
 今度はある家の中に飛ばされた。そこにはうめく男の人が一人、ベッドに寝かされていた。
 扉がきぃと音を立て開き、あの少女が入ってきた。
「とうさん・・・・今楽にするから・・・・」
 そういってナイフを取り出し自分の腕に当て引く、
 球の血があふれ、皿に跳ねる、そして少女は止血もしないで父と思しき人に飲ませる。
 父はとたんに起きて、少女を抱く。
 今度もまた意識が飛ばされた。明け方、豪邸の前だった。そこからあの少女が飛び出してきた。急いでいるようだった。腕には無数の傷跡があった。
 少女が走って街を出た後、少しして大量の人が五月蠅く叫び、少女を追って街を出た。
 また飛ばされた。再び女神の石柱に・・・・・。
 少女と無数の人が走ってきた。
 少女はそこから躊躇せず身を投げた。
 水が弾ける。人々は呆然としていた。
 刹那、海から、少女が落ちた地点から水龍が姿を現した。
 瞬間、石柱は色が純白から紅へと変化し少女は石柱に寄りかかって眠っていた。
 再び海岸に飛ばされた、そこに魔神がいた。血に塗れた髪、服の少女がやってきた。
 魔神となにやら話している。
 やがて魔神はどこかへ飛んでいき、少女は壺の中へと入っていった。
 そんな悲しい夢だった。

 オレはイリスの家で傷を癒していた。ファルは、もう回復している。
 明日にでも神殿の方に向かおうと思った。

第二話 闇の格闘剣士

「ほら、締めて3600だぜ」
 金を払い、武器屋で武器・防具を買いそろえる。
 それにしても、ファルはオレと一緒にいると目立つ。一時期は街の人に「そっちの手は早いのね」と言われたほどだ。帰ってイリスにその話をすると「皆さんは、ファルちゃんが魔神であると知らないからですよ」と言って「でも、魔神と知ると人々は畏怖しますから誤解されたままが一番いいかもしれません」とも付け加えた。
 まあそのうちに、言葉の意味とか思い出して(でも記憶は戻ってないんだけど・・・)ファルは冒険の仲間と言うようにした。
 イリスの店で少し安くしてもらった薬草を買った後、今度は女神の石柱(王の墓所)とは正反対に、北にある古い神殿に向かうことにした。
 ファルは(その幼い容姿で)街の人気者になった。密かにファンクラブも存在しているという噂だ。みぃと言う口癖は変わっているが、礼儀正しく(本当か?)、街の仕事をほとんど手伝える(料理、洗濯などの家事は朝飯前らしいが、真相は定かではない)、前、子供が泣いていたのをあやそうと努力していた(確かそのときは、村のはずれで魔法の練習してくると言ったはずだし、そのとき魔法に驚いた子を泣きやまそうとしていたんじゃ?)等の良い噂も聞く。ファルが神殿まで行くと知って、街の人々は「モンスターとリトさんには気をつけてね」と言って(何でオレまで・・・・・?)心配していた。
 神殿までは約1日かかる。・・・・・朝一に出れば、夜に神殿前でキャンプが出来る。装備は整えたし、明日出ることにして、今日はファルを自由に行動させることにした。
 ・・・・・もっぱらオレはパブに行って神殿の情報を聞いていたが。
 ファルは図書館(ユーノがすごく大量のクラゲの刺身を持って帰ってきたらしいので、(帰ってきたが大事)再営業した)に行って、『アンチマジック』『魔物の生体』『創造伝記』等を読んでくるらしい・・・・・・・わからん。ファルをむかえに行った時に噂のファンクラブだろうと思しき男二人が(ストーカーまがいに)ファルを見ていたので、蹴り倒しといた。・・・・・・魔神だぞ、こいつは・・・・・。

 神殿へ向かう道中、体力の少ないファルがふらついたので、休憩をはさむことにした。ファルは、オレに体を預けて仮眠している。
(ぐはっ!!やばい)
 こう見ると結構かわいい・・・・・等と思ってファルの無防備な寝顔を見ていると、外には魔物なんていないはずなのに殺気が見る見るうちに大きくなってオレに刺さる。
(こっ、怖えぇ〜!!)
 ちょびっと休憩もできたしファルを起こして神殿へ向かった。

 ファルは体力が少ないので、普通よりも多く休憩したが(大半は恐ろしい殺気のおかげで)予定通り神殿前で夜を迎えた。
 ちらほら、オレのキャンプの周りに大量にキャンプしているらしい炎が見えるのは気のせいか?気のせいだろう、気のせいと思いたい・・・・・・。
「みぃ・・・・リト、ちょっといい?」
 そういってファルはオレにどんっと抱きつく、とたんに周りからごうっと殺気が満ちたが、ファルがまじめに語りだしたので、気にしないように努力した。
「私・・・・・今がシアワセ。昔、お父さんの仕事に利用されて、悲しかったから・・・・・・・だから・・・・」
 するとファルはいきなり泣き出した。(殺気が五倍増し(当人比)したが、無視!!)
「私は、みんなとシアワセに暮らしたい・・・・。昔、そう思っていた。でも、そんなのって傲慢かなって、叶わないのかなって、でも・・・・」
 涙で声が震えている(そして周りは憎悪にて怒りで大気が震えている・・・・・怖い)
「街の人は、みんな優しいね。ファルを商売道具としてみていない。私のほしかった『愛』をみんな与えてくれる・・・・。でもね、優しくされると思い出すの・・・・・昔、ファルが人間だったときが・・・・ファルを魔神として利用してた時が、頭の中に出てきて怖いの・・・・・」
 ああ、そうか・・・・魔神とはいえ、この子も元は人間なんだ、オレ達と変わらない。
「リトは、ファルを愛してくれるよね」
 一歩聞き間違えれば、思いっきり大胆発言、てか夜だし。周りは、思いっきり一歩聞き間違えて血の涙を流さん奴もいるだろう。ので、
「ファルは、オレの大切な仲間だよ」
 と言うことにした。周りの殺気も少し引く。
 ファルは、オレの答えに満面の笑顔で、
「うんっ」
 と言った。その後・・・・・・・。
「リト、一緒に寝てい〜い?」
 と聞いてきたが、後が怖いので、近くで寝ていいから野宿用の毛布を持ってきなよと言った。

 ・・・・夢を見た。漆黒の夢にファルと同じ声、強い声が聞こえる。
『父を助けるなら、私は龍にでもなんでもなります』
 ファルと同じ声、絞り出すような声と、誰かの狂乱した声が聞こえる。
『お父さん・・・・本当に私を愛してくれていますか?』
『もちろん、お前は天からの授かり物さ!!』
 群衆の五月蠅い声が聞こえる。
『あの娘を捕らえれば金が入る。あの娘の血をワシの物にする!!』
『馬鹿を言いなさんな老いぼれが!!オレが頂いてやる!!』
 ファルと同じ声、悲しい声がする。
『どうして・・・・・誰も私を一人の人として見ないの・・・・・?』
 水の音と、重い、雷鳴のごとく重い声が聞こえる
『汝は親を許しても、我が血の思いは、汝の親の暴君、死を持って粛正せんとす』
 龍の咆吼・・・・・・・・。
『逃げてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!』
 何かが潰れる音、そこには朱、漆黒といえども、その色はたやすく想像できる。
 弱々しいファルと同じ声がする。
『私はもう疲れました・・・・。死ぬことが出来ないのならあなたの壺の中で眠らせて下さい』
 渋い声が聞こえる。
『身が自由になれる。我には有りがたい話・・・・・・そなたはいいのか?』
 心の声が聞こえる。
 私には何が足りないのかな?
『愛』を人からもらうためにはどうすればいいのかな?
 礼儀正しいことかな?
 家事をしっかりやれることかな?
 みんなに喜ばれることをすればいいのかな?
 愛嬌が足りないのかな?・・・・・・何がいいだろう?そうだ。
 ・・・・・・みぃ、少し変かな・・・・?
 みぃみぃみぃ、かわいいかも・・・・・。
 これで私が次に見た人は、私に『愛』をくれるかな・・・・・。
 楽しみだな・・・・・。
 だって私はあれから何百年もこの壺の中にいるもの。
 龍の血には、不老の力があるから、絶対に死なない。
 ・・・・・もう少し体(胸はおっきい方がいいって聞いたことがあったし・・・・)がおっきくなってから不老になれば良かったな。
 そうすれば、もっと『愛』がもらえるのになぁ。

 さすがにもうあいつ等は追ってこない。
 確かにこの神殿にたかだかファンクラブが入る勇気はないだろう。
 ファルと同じ様な壺がいきなりあってびっくりしたが、飛び越えられそうな距離ではない穴があったので、回り道が必要らしかった、遠見筒とよばれる遠くを見るときのアイテム(骨董屋にて300)を使って確認。その壺の裏に隠し通路があるらしい。
 回り道では、ウルフやシルバーファングが出現し、さすがに地獄の番犬と言われているケルベロスには、相見える前に武器屋の店主からおまけとしてもらったコボルトの秘宝『センスオブワンダー』に反応した隠し階段に飛び込んだが・・・・その後、隠し部屋を調べつつ一本道を行くと、ゲートが見えた。
「しまった・・・・。クリスタルがねぇ」
「みぃ〜どうするのぅ〜」
 前の王の墓所の時には、ゲートに近くにあった宝箱に入っていたが、今は無い。
 僅かだがセンスオブワンダーが反応している。
 ゲート向かいの壁に不自然な凹みがある。そこに少し力を込めると、
 ゴゴゴゴゴゴゴッ
 隠し部屋があった。そこにはずっと南に続いていて、どうやら王の墓所に続いているらしい。ファルが隠し部屋にあった宝箱を開ける。
「みぃ、リト、よかった、クリスタルあったよ〜」
 そういって体当たりなみの勢いでこっちに来た。
(覚えといて今度また行くか・・・・・)
 ゲートには、空間移動が出来るとおじいさんが言ってたし、何より王の墓所からはそのゲートの空間移動で戻ったのだから。(イリスには、「深夜でも明け方でもいいですから帰れたら帰ってきて下さいね、危険なんですから」そう注意された)
 先に進むと仕掛け針があったので、丁寧に進む。ファルが転んで針に襲われかけたが、オレが素早く反応し、抱き起こして走り、何とかセーフ。
「みぃ、リト・・・・・・ありがと」
 心なしかファルの顔がほんのり桜色になっている。よかった、やつら(ファンクラブ)がここにいなくて・・・。現在の状況はお姫様だっこをしている状態。しかもまだ仕掛け針があるのでそのままの状態で進む。ファルは顔が上気している。
 でもメインヒロインはティララです。ここでラヴになっちゃぁダメっすよ(By Kai)
 その奥に向かって降ろしてあげたときに一陣の風が吹いた。
「シームルグだ!!」
 そこには、怪鳥シームルグ、天空の覇者グリフォンがいる。
「ここは神殿内のはずなのに・・・・くそ!!」
 ここは、崩れていて空が見える。ここをグリフォンやシームルグはねぐらにしていたらしい。
「みぃ、シームルグは突き攻撃に弱いよ!!」
「スピアか?ロングスピアならあるぞ!!」
「みぃ!!だめ、グリフォンの突付きはシールドなしじゃ致命傷だよ!!」
「ならスピアとシールドを持つ!!」」
「無理だよ〜!!」
 そういってシームルグとグリフォンに追いかけられる。センスオブワンダーの反応があったので、怪しい壁をざっと見てみる。目の前の突き当たり壁の隣がほんのり紫がかっている。早口で説明するとファルはうなずいた。
 ・・・・・が、グリフォンの方が僅かに早い。
「リト!!」
 ファルが鋭く呼んで、早口でオレに説明。その説明通りにさっき普通に置いてあった宝箱の中に入っていた『粘着玉』を投げた。当たって気持ち悪がるグリフォン達、大きく隙が出来て・・・
「風の精シルフよ、我が願いのごとし風を足へと・・・・・・フォス!!」
 ファルが魔法を唱えると体が軽くなったような気がして早く走れた。
 そのままの勢いでファルとともに隠し扉をくぐり、閉める。
 粘着玉の当たっていないグリフォンどもは隠し扉に気づかずに獲物を探している。
 粘着玉の当たったグリフォンは、未だに奇声を上げて暴れている。
「みぃ〜ここからどうするの〜?」
 隙間から外の様子をうかがいながらファルは言う。
「魔法は?」
「みぃ、グリフォン系は風と水には耐性強いよ」
「攻撃は?」
「みぃ、突きに弱いけど、シールドが持てないスピアはつつかれたら致命傷だよ」
「あの宝箱は?」
「みぃ、知らないよ〜って、えっ」
 オレが指さす先に宝箱がある。お互いにうなずいた。
 仕掛けに素早く対応できるように、オレが一人で宝箱の前に行く。ファルは、その場で仕掛けが作動しないか警戒する。
 心配は無用で、仕掛けという仕掛けはなく、二人とも宝を見る。
「なんか鍵がかかってる・・・・・」
「こうして壊せばいいじゃん?」
 そういってナイフでつつくと、
 どうっ!!
 と爆発して軽いやけどを負った。
「痛って〜、ファル、悪いけど薬草とって」
 ファルは薬草を渡しながら
「大丈夫?」
 と聞いてきた。
 爆弾がしけっていたのだろう、爆発の規模は小さかった。中身も無事である。
「青い刀身の短剣・・・・・?」
「みぃ!!それはミッドナイトブルーだよ。魔力上昇の突き系の短剣」
「何でそんなこと知ってんだ?」
「みぃ?世界武器書に書いてあったよ、図書館で読んだ〜」
 世界武器書?何でそんな本を?訳ワカランというかファルに似合わん。
「みぃ〜龍になった少女と召還の秘法を渡したら、これをユーナさんがくれたから使おうと思ったのに・・・・」
 そう言って携帯ホルダーのついた物を出す。『盗賊の七つ道具』というらしい。
 ・・・・・もっぱら、宝箱専用だが。
「図書館姉妹がこれを?」
(顔に似合わずこんな物を持ってるんだな・・・・・)
 そう思いながら、ファルに「危ないから開けるのはオレがやるよ」といって盗賊の七つ道具をもらいもう一個の方を開けた。
「これは・・・・・!!」

 バンッと隠し扉を蹴り開ける。グリフォンやシームルグがこっちをバッと見る。
 ファルの手には、ミッドナイトブルーとラウンドシールド。
 オレの手にはさっき手に入れたレイピアとカイトシールド。
 それを手に攻撃してくるグリフォン&シームルグを倒しながら進む。
 レイピアとは、完全突き系の剣、刀身は針のようになっている。
 もちろん、レイピアは両手で構える必要はない、片手にはシールドも持てる。ファルのミッドナイトブルーも突き系だが、魔力上昇と護身用の意味が高い。
 ウルフやシルバーファングを倒してきたので、それなりに強くなっている。グリフォン達はなすすべなく倒れた。

 結構先に進んで左右に分かれ道、直進して隠し部屋の中に入り炎の短剣『カーマイン』を取り、隠し部屋から出て、とりあえず左に行く。針山を見て引き返し、右側の方に行った。
 ゲートはあったがクリスタルがない(また・・・・・)。
 奥の方に道があったので進んでみると、扉はないが部屋らしきところに出た。
 ・・・・・もっとも置いてあるのは宝箱一個。レイピアとミッドナイトブルーを手に入れた時のように進む、罠はない。宝箱にも細工はして無く開けた。
 ガシャン!!
 後ろが大きな音を立てた。
 バッと振り向くと牢屋のような鉄格子が落ちていた。
 センスオブワンダーは、反応無し。オレは冷や汗を流した。
(大っっっピンチですな・・・・・・)
 ファルは、驚いて鉄格子まで走り、何とか出ようとするが、特別すごい鉄で出来ているのだろう、開かなかったし、攻撃、魔法、共に壊せなかった。
 ・・・・・ちなみにオレが試しても一緒。

 時間の感覚は、王の墓所の時のように短くはなかったので解らないが、とりあえず夜ということで、牢屋の中で寝ることにした。実際傷を治すのには良かったかな・・・・・。宝の中身はゲートクリスタル、感想は「やっぱり・・・・・」。
 オレの予想では(あくまで予想)、こんな仕掛けをしたんじゃこの宝の持ち主もこれを手にしてみたら今のオレ達のように自然と牢獄行きだ。
 よほど怖かったのか、オレに寄り添って寝るファルを見て、「何とか出なければいけない」と思った。
 まず仮説を立てた。
1,仕掛けは、クリスタルを戻して箱を閉めても直らない。外から、開ける仕掛けがあるのか、また、仕掛けを解いてから入るのか・・・・・今までにそんな仕掛けはなかったし、あの針山の奥は解らないが、そんな感じの仕掛けではない。
2,クリスタルは鉄格子越しに投げられる。持ち主は、家来をここに入れて取らせ、そして閉まったところを間だから投げてよこし、犠牲者一人・・・・・そんなんじゃあすぐに家臣が消えて崩壊する。そんなメリットまでは、払えないだろう。第一そんなんならここはオレが入る前にもう閉まっているはずだ。中の人が死んでから扉が開くような高度な仕掛けはまず無い。
3,魔神とともに取りに行き、出るときに特定の呪文を唱える。・・・・・魔神が主を見つけるのは珍しく(オレとファルも例外ではないが・・・・・)この可能性は否定。ならば・・・・
(やはり、この室内に何かあるんだ)
 でも、センスオブワンダーは反応がない。
 気になるといえば、色の違う床があったが、隠し階段ではなかった。
 眠ってしまっているファルを床に寝かせ、荷物を枕にさせる。
 色の違う床に立ってみた。何もなく、仕方なく今度は宝箱の方に行ってみる。
 ゲートクリスタル入りで、閉めてある。何となく攻略してから持ってった方がいいと思ったからだ。
 はぁ、とため息を吐いて立ち上がると、その拍子に宝箱を少し蹴ったらしい。ズッと音を立てて少し動いた。
(?)
 オレはこれを見て、何か引っ掛かった。普通は、宝箱自体、動かせるほど軽くは出来ていない、それをある拍子にコツッと足が当たったくらいでこんなに簡単に動くとは・・・・・。
 宝箱を持ち上げてみる。
(!!)
 ピンッと頭の中である方法が思いついた。クリスタルを箱の中からとりだし、色の違う床に置く・・・・・・。
(やっぱり・・・・・)
 シュカシュカシュカと鉄格子が上にあがり、クリスタルを手に、外に出られるようになった。

 クリスタルをはめ、針山の奥に行くと、隠し部屋があるらしくそこに入ると『ネクタル』と『ソーマ』が宝箱に入っていた。
 ファルはネクタルとソーマを飲んで、「みぃ〜くらくらですぅ〜」とふらついたので、少し休んでからまた歩き出した。
 奥には、なぜか人型の石像が二つ並べて置いてあり、昔この神殿を使っていた主の趣味の悪さに呆れた。そのまま奥に道があったので、そこに向かった。
「みぃ!!リト!!右に飛んで!!」
 ファルの叫びにびっくりしたが、言われたとおりに右に飛んだ。
 ・・・・・自分の立っていた場所に火球が三つほど飛んできて、地面を破壊する。
 後ろを向くとオレとファルの間3メートルほどの所に人型の・・・・・魔女のような少女が二人立っていた。
(こいつ等は・・・・・・)
 賢女マレフィカスと伝説の神の妹フレイヤ、とは言えどちらも魔物である。
 ・・・・・・それでも相当な魔力の使い手で、これといった弱点のないやっかいな敵である。
 ファルは、マレフィカスに睨まれながらもそろりそろりと壁づたいにオレの方に合流しようとしている。フレイヤは、完全にオレの方だけを見てニコリと妖しげな笑みを浮かべている。
(やっかいな相手でも・・・・これは戦わないといけないな・・・・)
 そう思い、魔法に強い敵だから属性のないブロードソードを抜く。
 ファルは使い慣れていないが、フィースという名前の弓を取り出して、矢をつがえ、いつでも放てる体勢に入っている。オレとファルは互いに視線を交わしうなずく。
 ・・・・・これだけで通じるとは、ずいぶん戦闘Lvが上がったものだ。
 ファルはマレフィカスを、オレはフレイヤと対峙する。
 マレフィカスは、オレから見て向こうに・・・・・オレ達が今来た道の方にファルに警戒しながら走り、魔法を唱え放つ。ファルは横に飛び照準を・・・・・フレイヤに向け二発放つ。
 フレイヤは油断していたらしく、もろに矢を足と腕に受け(ファルがねらったのは胴体だったが・・・・)すくむ。
 オレは走り、フレイヤの身体を剣で薙ぐ。ファルが矢を打ち終わった後にマレフィカスは炎を放った。ファルに当たる。フレイヤはバリアを張ろうとするが、それよりも早くオレの剣がフレイヤの身体に沈んで息絶えた。マレフィカスが再び炎の呪文を唱え放つ。
 ・・・・・よりも早くファルの身体を抱えて角を曲がり回避。
 カツッ、カツッ、カツッ、とマレフィカスはゆっくりオレ達の方に歩きながら詠唱してくる。
 ファルにドリンク系傷薬を飲ませるが、水のファルに炎のダメージは大きく、気絶したままだった。
(くそっ少し隙があればいいのに!!)
 もう少しで曲がってくるだろう。オレは賭に出た。

 マレフィカスは思った。次の一撃で奴らは終わる・・・・あの角は行き止まりだったはず。奴らに逃げ場はない。
 後7歩で角に着く、6,5,4・・・・・
 マレフィカスは集中用の詠唱から魔法の主詠唱に変える。
 唱えながら、3,2,1,0!!
「!!」
 風を放った後に驚愕した。ダメージを与えた弓装備の少女のほかに誰もいなかったのだ。
(なぜだ!!どこに!!)
 スタッと後ろから音がしたときには遅かった。すでに剣を持った方の男に、背中から自分の腹に剣を刺し込まれていた・・・・・。

 早いとこファルを起こしてここから離れよう。そう思ってオレはまずファルを運んだ。
 少し進んだ場所にゲートがあった。クリスタルも近くの宝箱に入っていた。
(よっしゃ!!)
 そこにクリスタルをはめて、ファルを下ろし、荷物を枕にして寝かす。ファルの腕には守護石『ルビー』を加工した腕輪が装備されていた。
 ・・・・・・炎ダメージ軽減のためである。もっとも、相手はファルが耐性の強い風を撃ってきたので意味はなかったが・・・。その後オレは、器用に壁を上り(壁はボロボロで、上れるような足掛けは結構あった)上の方で待機、賭に勝てたのだ。(もし相手がオレが上にいたと知ったらバリアをするし、滑って落っこちてもまた失敗だから、賭であったのだ)
 ファルが目を覚まし、大丈夫か確かめてから先に進むと、一本道があった。
 そこには5つ石版があり文字が書いてあって、一番奥に階段がある。
 壁の文字は順番にこうだった。
(我は闇より来たりて闇に還る者なり)
(我は破壊する者なり)
(我は力と破壊を与える者なり)
(我は終わりをもたらす者なり)
(我は世界を維持する者なり)
「石版に隠れて見えなかったけど、スイッチがあるよ」
「みぃ、仕掛け橋って書いてあるよ」
「下ろしとくか」
 ガゴンッという音がスイッチをおろしたと同時に響いた。
 階段を上がると、ひときわ長い一本道があり、扉があった。そこを開けると
「ここに繋がってたのか・・・・」
 そこは、入り口のある・・・・たぶんかつては大ホールだった場所。大穴が開いていた場所に繋がっていた。たぶん仕掛け橋のスイッチもここと連動しているのだろう、大穴に橋が架かっていた。
 オレは、祀られている様な、ファルと同じ様な壺・・・・・装飾はスカイブルーではなく紫がかった黒だが・・・・・を開ける。刹那、自分とファル以外の色が全て黒になり、漆黒へと変わった。
『我を呼ぶのは汝等か!?』
 女性の声だが、はっきり相手を畏怖させる響きがある。
『ん・・・・お前は?・・・・そうか、そういうことか・・・・・・』
 と何か独り言を言っている。その声は少し柔らかくなった。
『そうだな・・・・・・汝に問う、我は闇より来たりて闇に還る者・・・・』
 いきなり相手は語りだし、オレは少し混乱する。ファルは恐怖でガチガチだった。
『我は破壊する者、我は力と破壊を与える者、我は終わりをもたらす者・・・・では』
 あれか?あれのことなのか?
 声の主の実体が出てきた。ファルより大きく、オレと同じくらいの背の、細い手足は筋肉質な、スレンダー銀髪少女、が聞いてきた。
「最後に我の意味を語るものは何だ?」
 静かな沈黙が流れる・・・・・。そしてオレは口を開く。
「我は、・・・・・我は世界を救う者なり!!」
 少女は黙った。そして、
「少し違うな・・・・だがおもしろい答えだ。いいだろう、我が名はディーヴァ、汝の力となろう」
 違ったらしい。そもそも、ただ無気力に石版の文字を読んでただけだからはっきりとは覚えていない、でも彼女は力を貸してくれるそうなのでここは甘受しておこう。
 闇がとけて、周りは元の神殿に戻っていた。違うのは壺が無くなったことと、銀髪の・・・・・・・・・闇の格闘少女がそこにいることだった。
「よろしく、ディーヴァ」
 そういって新しい仲間と握手をした。その上に小さな手のひらが乗った。
「えへへ・・・・よろしく〜」
 ファルは笑顔でディーヴァを見た。
「ああ、よろしく頼む」

 神殿を出ると、周りは夜だったが関係ない、このまま帰れば明日の夕方頃には街に着く。
 歩きながらディーヴァのことについて聞いた。
 ファルは、ディーヴァを気に入ったらしく、ディーヴァとくっついて歩いている。
 自分の生命危機が減ってうれしい反面、少し寂しく思える。ディーヴァは、解らないこと以外は全て答えてくれた。
 昔、魔神の壺を集めていたこと。(これについては結構伏せられたが・・・・)
 魔法よりも、少し身体に無理を利かせて放つ『技』の方が得意であること。
 シールドの存在すら知らず、武器を二つ持って戦うことを主としていること。
 闇夜ははっきり見える等の少し冗談めいたことまで、全て。
 やがて、昼になり夕方になって街が見えてきた。ディーヴァは、人里離れて暮らしていた新しい仲間(メチャメチャな理由だ・・・・)として街に暖かく迎えられた。

 帰ってすぐ、ファルはディーヴァとイリス宅の夕ご飯の支度をしていた。
 後でイリスに話を聞いたことによると、ディーヴァに、まな板の仕事をやらせたら包丁とナイフを二本持って、瞬く間にさばいたという。さすが、格闘少女。
 でも、その時オレは、ファルにいろんな書物があることを(アンチマジックとか世界武器書とか神殿内でイヤというほど)聞かされていたので図書館に行って少し本を読むことにしていたのだが・・・・。
 そこに冒険者が寄付してくれた本『終わらせる者』というのが新しく入ったらしいのでそれを読むことにした。
 ・・・・・全部読むには何日も要しそうだ・・・・
 初め、しばらく読んでからそのことに気づき、最後のページまで飛ばす。すると紙切れが一つ挟まっており、こんな言葉があった。
(時よ、全てをつかさどりし時空の鎧よ、汝の新しい主は現れた)
 ユーノにこれを聞くと、「本じゃないでしょ?だったら持ってっても構わないわよ」と言った。う〜ん妹のユーナと比べてすごくテキト〜だ・・・・・。
 まあ何かの役に立つかな?と思って貰っておくことにして夕食へと向かった。

 夢を見た。漆黒の空に輝く星々。
 そこに、銀髪の少女と一人の少年がいた。
 二人は草むらに寝っ転がりながら、何か話をしている。
 少年は懐から女神の石像を取り出した。
 朝になって、瓦礫を壊しながら壺を見つけ、荷台に乗せていく。
 やがて、洞窟の中の大きな湖にたどり着き、そこに壺を全て投げていく。
 銀髪の少女が少年に何かを言っている。少年は何か言い返し、やがてうなずいた。
 神殿に少年は来ていた。そこには紫がかった黒の装飾のある壺。
 少年は、巨大な大穴をどうやってかは解らないが飛び越し、壺を崇めるように祀る。
 壺をじっと見ている。やがて少年はその場を去った。
 少年は、宝箱に自分のつけていた鎧を封じた。新たな者に、真実の探求者に与えると・・・。
 そんな一時の夢であった。

 ディーヴァは、ファルのファンクラブたら親衛隊やら語っている輩に大きなダメージとなった。ファルがディーヴァにいつもだっこぎゅ〜していて、そしてファルを見ていようものなら容赦なく蹴っ飛ばすらしい。(ただファルと歩いているのを見られるのが気恥ずかしくて照れ隠しに蹴っ飛ばしてるだけだと思うが・・・・)しかも相手が女なので、そいつ等は自然消滅という形で、ファル親衛隊とかは崩壊したらしい。
 まさに闇の女神、鬼神のごとしである(意味不明)
 イリスに、神殿の隠し部屋の奥の洞窟について聞くと、あそこは王の墓所だけでなく海岸洞穴という所にも繋がっているらしい、次の目的地が決定した。
 ファルとディーヴァ、非常に頼もしい限りだ。

第三話 光をまとう少女

 ディーヴァは、時々夜に家の外に出なければいけないというときに役に立った・・・・・らしい。
 帰り道に声をかけられる可能性があるからということで、安易に夜のパブに行けなかった女性達には、最高の助っ人らしい。なるほど、魔神にはこんな使い方があるのか(違)

 ディーヴァの装備と、自分らの装備を変えるために武器屋に行く。ディーヴァはいつまでもダガーでいるわけにはいかない。 
「まあ、こんな装備でいいかな?」
 と言って、みんなの装備を見てみる。
 海岸洞穴の大いかは、斬り攻撃に弱いとパブで聞いたので、バスタードソードを片手に、カイトシールドを片手に持つ、ディーヴァは、オレの持っていたブロードソードと炎の短剣カーマイン、ファルは、武器屋が冒険者から買った、魔力が増幅する武器ジュエルロッドを持っている、これは両手持ちだ。鎧、コート系は、ディーヴァはスプリントアーマー、ファルは、ハンターコートを羽織った。オレは、なかなかいいのが無く探していると、開かない宝箱に目がとまった。
「ああ、そいつは未だにさっぱり開かねぇや」
 と武器屋の主は言う。オレはふと思って、図書館で貰った紙を取り出し、その言葉を言う。
「時よ、全てを司りし時空の鎧よ、汝の新しい主は現れた」
 すると、ピッと光ったかと思えば、その刹那、光が見る見るあふれ、輝きが爆発した。
 全てがおさまったときに、宝箱が開いていて、その中に古びた鎧が入っていた。
 全員が驚く。
「これは・・・・・」
 とオレが中を見る。
「開け・・・・・」
 とファルが絶句。
「ちまいやがった・・・・」
 と武器屋の主が感嘆。そしてディーヴァは、
「この鎧はエタニティーズ、時空の鎧と言われているが、かつての輝きは今はないな・・・・」
 そうつぶやいた。武器屋の親父は、
「オレは感動した!!その鎧をオレに叩き直させてくれ、そこのねーちゃんが言うような、かつての輝きっていうのを取り戻させてやる!!武器はお礼だ。待っていきな!!」
 と言ってオレ達を見送ったあと「さ〜て、これからおもしろくなるぞ」と意気込んでいた。

 イリスに、今から行くからと告げて、ゲートを通り、神殿に出る。あの隠し扉を開けて、地底回廊に出た。魔物はコボルト系の・・・・・ウルフとあまり変わらないような強さの奴ばかりだったので、楽々進むことが出来たが、ウィスプやエレメンタルはまだしも、アミーを相手に苦戦、結局は逃走した。薬草だけでなく、傷薬も使い治癒する。しばらくして見えたゲートには、コボルトのアジトであろう場所から素早いファルがひょいひょい避けてクリスタルを取ってきたものをはめる。先へ進むとここが海岸洞穴だろうか、乳白色の洞窟に出て、波の音がよく聞こえた。
 噂の大いかは、結構強く、墨をはいてきて、目の前が見えにくくなるなどもした。
 やがて、ゲートが見え、近くにあった宝箱の中のクリスタルをはめ込み、先へ進んだ。
 その奥では、半裸の人魚が大量に侵入者を睨む。オレ達は急いで走り逃げ、追いついた奴をバスタードソードで斬って斬って斬り倒した。だいぶ奥に行くと、ゲートがあった。近くの人骨の腰あたりにクリスタルが落ちていて、この人の冥福を祈ってクリスタルをはめた。ここに来る途中に、書物『ある女神の物語』というものが地上からの光を浴びるような感じで、台座に置かれていた。
 奥に進むと、ファルやディーヴァの入っていた壺と同じ様な物が置かれてあった。装飾の色は、明るい光を思わせる様な不思議な桃色、それに近づくと、背後からバシャという音がした。振り向くと半裸の人魚、しかし尋常ならぬ殺気が今までの雑魚とは違うということを物語っていた。
 ・・・・・海姫アンフィトルテ、手に持つ『トライデント』が蒼く妖しく輝く。
 その下半身が魚のようなものとは思えない素早い動きで、ファルに突きを食らわせようとする。しかしファルは、身をかわして、そのまま後方に行く。オレの手に壺、その前方に、次はどう行くか・・・・と考えているアンフィトルテと、どこから来てもさばく!!と警戒して構えるディーヴァ、そして、後方には、詠唱をしていつでも撃つよ、というようなファル。そして戦いが始まった。
 初撃を受け流し、反撃するディーヴァ、ファルは、ディーヴァにフォスを放ち、風の魔法『シアル・サー』で相手を翻弄させようと激しい戦いをする。オレはこの壺も魔神の壺だと思い、戦力を多くすると言う意味で開けると、いきなり壺の中にのみ込まれてしまった。奈落の白い闇の中、ファルの自分を呼ぶ叫び声が聞こえた気がしたが、解らなかった。

 心地よい波の音がする。なぜだ、オレはあの壺のあった祭壇で戦いをしていたはずだ。
 目を開けると、部屋の中だった。窓の外には海、何処まで行っても島などはないようだった。
「あっ起きた〜」
 ガチャリと扉が開いて、オレと同じくらいの年の少女が近寄ってきてオレの寝ているベッドによっいしょ、と腰を下ろす。輝くような光をまとう少女だった。
「私はティララ、覚えてる?」
 たぶん、いや間違いなく初対面だ。こんな女の子を見たことがあれば、何十年経ったって覚えている。あの壺の装飾の宝石のような淡いピンクの髪、整った顔に透けるような白い肌。かわいいとも綺麗ともいえる少女だ。会った事があるなら忘れるわけがない。
「そっか・・・・あれからだいぶ経つもんね・・・・」
 とは言ってもオレは17歳(年齢は思い出した)だから、たぶん10年くらい前だろうと思うが、こんなかわいい子に自分を覚えて貰っていたなんて光栄だった。
「ご飯作ったけど・・・・食べる?」
 と聞いてきて、オレは急いでベッドから降りた。
 ティララは最初に見たような神々しさとはうって変わって話しやすい女の子だった。
 食事をしながら、今までのオレのことを聞いてきたので楽しくいろいろなことを話した。
 記憶がなくなっていたこと以前は解らないが、今はイリスとか街の人と暮らしていること。
 冒険をして、イリスと生活していること、骨董屋の壺から不思議な女の子が出てきたこと。
 神殿でマレフィカス&フレイヤと命からがらの戦いをしたこと、その神殿に壺があって、すごく頼りになる少女が出てきたこと、エタニティーズという鎧を手に入れて、今、武器屋で打って貰っているということ、今、海岸洞窟を冒険していたと言うこと。そして、
「それでさ、海姫アンフィトルテが出てきてそいつと・・・・・」
「どうしたの?」
 うんうんと笑顔でうなずきながら聞いていたティララは、オレが話を切ったことで、心配そうな顔になった。
「な、なんでもない、大丈夫」
「本当に?」
 なおも心配そうに聞いてくる。
 ・・・・そうだ、あんな強い敵をたった二人で相手しているのだ。無事なわけがない。
 しかしここで、この場を立ち去ろうとすると、この少女を傷つけることになる。
 ティララは、部屋でゆっくりしていけばいいから、と言って、外に出ていった。

 ゆっくりと体を休める。しかしさっきから心が休まらない。
 オレは、さっき寝ていたベッドに横たわり、考えていてあるときはっとした。
 戻ろう、と思うと震えるのだ。戻りたくない、ここは安全だ。・・・・・と
 そう、オレはただこの緊急事態に、ティララを傷つけるとか、彼女がかわいそうだと理由を付けて、甘えていただけなんだ・・・・。もちろん、このままでいいはずがない、オレには、仲間だと誓って握手をした魔神がいるのだ。魔神が主を裏切らないだけじゃない。
 ・・・・・・主も、魔神を、仲間を裏切ってはいけないのだ・・・・・・。
 ベッドから飛び起き外に出た。ティララが、布団のシーツを取り込んでいた。
「ティララ!!頼む、元の世界に戻してくれ!!」
 目の前まで駆け寄り、事情を話す。すると彼女は・・・
「やっぱりね。私もあなたがそう考えていると思った。・・・・・私も魔神だよ。考えていることなんて解る。・・・・まあ私は魔神の中でも特別体なんだけどね」
 そういって舌を出してエヘッと微笑み、彼女は、元の、海岸洞穴へと戻そうと詠唱をして、そして光に包まれた。

 闘いは困難を極めた。初めは相手の攻撃を読んでかわしていても、次第に、腕に、横腹に、足に、と刺さる。ファルは近づけまいとサーで牽制するが、魔法耐性が高いらしく、微動だにしない、ディーヴァはついに倒れ、アンフィトルテの標的がファルに定められた時に、光が輝き、そして引いていった。一人はオレ、そしてそこにはもう一人、輝く光をまとった少女がいた。
 ティララだ。
 オレは剣を構え、アンフィトルテと対峙する。ティララはまず、足に傷のあるファルの方に向かった。
「大丈夫?」
 そう言ってファルの足に出来た傷を見る。擦り傷が大きく、痛々しい。
「みぃ・・・・それよりも姐さんの方を先にして!!」
 姐さんとはディーヴァのこと、ファルはそう呼んでいる。
「今はあなたの傷を治すわ、待っててね」
 オレは攻撃をさばきつつ斬撃を喰らわす。ディーヴァのおかげで、だいぶ相手の動きが遅くなっていた。
「天の光よ、我が手に満ちて、女神の祈りを聞き入れよ・・・・・マーフェ!!」
 とティララが魔法を放つと、まばゆい光がファルの傷口を覆い、そして、ファルの傷が無くなった。
「みぃ!!すごいよ〜」
 そういって杖を構える。
「ごめんなさい、ちょっとこれを貸して」
 そういってファルの荷物から、フィースを取り出し構える。
「みぃ、大丈夫?使えるの?」
「お姉さんに任せなさい」
 相手の隙を見て、ディーヴァを起こし、ティララに任せる。ファルが、サーを放って僅かながらも足止めに奮闘する。ディーヴァをこっちに連れてくる際に、相手に足を突かれ、先にオレにマーフェを放つ。オレはダッシュで回れ右をして相手に斬りかかった。
 ディーヴァに二回マーフェを放って、フィースを持って矢をつがえた。
「リト!!右にはねて!!」
 そうティララが叫び、バッと跳ぶ、そしてティララは、シュッと矢を放ち、ズバッズバッズバッと、アンフィトルテの身体に三つ矢を沈めた。

 全員が疲れ切っており(特にディーヴァが手ひどくやられており、戦うことは無理だった)、ゲートまで来ると、早々に街に戻っていった。
 オレが出てから一日経った昼で、すぐにディーヴァを寝かせることが出来た。
 ティララは、海岸洞穴に流れ着いてきた少女ということにした。
 ティララもファルに劣らずかわいく、ディーヴァに劣らず綺麗で体型も良かった。・・・ので、かつてのようにファンクラブや親衛隊が再発しかけだしたのを早い内に止めさせた。
 ・・・・・海岸洞穴から帰ってきていきなり疲れた。
 夕刻だというのに、オレは早々にベッドに横になり眠りについた。
 目の前には海岸洞穴で手にした書物があった。

 夢を見た。漆黒の闇に、傷だらけの人々が、道路で眠っているのも珍しくない街の。
 発掘する者がいた。何か自分の家族を、子供を養うのに、幸せにするのに、すばらしい物はないかと。そのうちに壺が一つ出てきた。その壺は、神殿の司祭が気に入り、高額で売れた。壺からは輝きを放つ金色の女神が現れた。
 女神は人々の傷を癒し、崩れた家を魔力で直し、
 『人々のために尽くす』、司祭の言ったことだった。
 そのうち司祭は死に、神殿の次期司祭は誰にするかということで、もめ事があった。やがてそれは大きな争いとなり、血肉を見るまでに広がった。

 夜中、一人の少年が神殿の祭壇に侵入していた。目的は壺だった。神官達の争いには興味がない。少年はある理由で壺を手に入れようとしていた。
 少年は、女神に恋をしていた。
 やがて壺を盗み、少年は逃げた。そのうちに、何千の兵が、少年を迫っていた。しかし愛する女神のため、必死に壺を守り、生き逃げてきた。少年には召還の方法は知らなかった。
 しかし少年は、ある神官同士で結んだ同盟の兵に取り囲まれた。無数の兵が、無数の刃を煌めかせ、無数の矢を輝かせる。そのとき、壺が開き、女神が現れた。女神は憤慨していた。何のために争いをしているの?その争いで傷つく人間がどれだけいると思っているの?それでも、争いは終わりそうにない。女神は破壊へと出た。
 天変地異以来の、心の底から沸く恐怖が人々を包んだ。
 マグマが吹き荒れ、陸が海と化し、海が山となる。やがて穏やかなる姿で、街と大陸が残った。女神ももちろん理解している。全ての人々が争いを求めてはいないのを。手加減をし、人々を生き残らせた。人々は女神と共に街を復興した。
 やがて、司祭という形ではなく、王として、あのときの少年・・・・今ではもう青年だが・・・・が、城に住まい、平和のために尽くした。

 その後、部屋の天井が見え、自分が居た。目が覚めたんだ。そう思って体を動かそうとするが出来ない、椅子に座って、ベッドに突っ伏した形で、ティララが横で寝ていた。
 ・・・・・看病をしていたみたいに・・・・・。
 ファルが、扉を開け部屋に入ってきて、オレを見てから立ち止まり、出ていってイリスを呼んできた。
 そこで聞くとオレは、三日も眠っていたらしい。ディーヴァはとっくに目覚めて、今は、薪割りをしているところだと言っていた。
 その間、ティララは、ずっとオレのそばを離れなかったらしい。
 ファルは、水くみ、タオルを持って行くなど奔放していたらしい。
 あとでディーヴァとティララにもお礼を言っておこう、ファルにありがとうと言った。

 しばらくして、ティララも目が覚め、夕飯となった。ティララが起きたとき、彼女は大丈夫!?大丈夫!?と聞いてきたが、もう何ともなかった。部屋に戻ると、一冊の本・・・・『ある女神の物語』を読んだ。内容は、あのときの夢とほぼ同じ内容だった。今までは・・・あの二人はそっくりの人物だったが、今回は、金髪だったし、後ろで髪をまとめて無くて、流していたし、どことなく似ていなかったように思える・・・・・今のティララと。
 途中まで読んで、頭が痛くなってきたので、やめておいた。
 図書館に預けることにした。
 深夜になって、ティララは今度寝たらもう起きないんじゃないのかと不安がっていた。
 明日という日がちゃんと来ますように、そういってティララは眠った。

 夢を見た。夢の続きを・・・・
 あれから何十年か時が経った。
 少年はおじいさんになっていた。
 あのときの女神は、召還していない。
 王は、変わってしまった。昔のような心は無く、今は、漆黒のごとく暗い心をしている。
 王は、狂ったように魔神を集め、召還した。
 王は、苦言を嫌い、女神を召還しなかった。
 王は、奴隷が死んでも、魔神に復活させ、無理矢理働かせた。
 王は、兵を大量に集め、そして強化した。
 そして・・・・・・・・・・・・・・
 女神は、悲しんでいた。
 女神は、かつて愛した者が、変わっていく様を見ているのがつらかった。
 女神は、かつての王に戻すべく色々言った。
 女神は、ついに王に召還されなくなっていた。
 だから・・・・・・・・・・・・・・・
 悲しいが故に今は眠ろう。今は彼のことを忘れよう。だが再び彼が目の前に現れたら、私のことを忘れていようが、どうであろうが、彼に再び恋をしよう。女神は深い眠りにつくために王の兵を操り、自分がかつていた場所。本来女神が眠っていた洞穴に運ばせた。

 潮風から噂を聞いた。王は死んだのだと・・・・・・。奴隷が召還の方法を知り、大量に魔神を召還させ、城に攻撃を仕掛けた。もうすぐ城が落ちるというときに、毒の杯を飲んだのだと、最後に私宛への手紙が残っていたこと、潮風が運んできてくれた。
『初めに、すまない、私はどうかしていたようだ。死に際になって浮かんでくるのはそなたの穏やかに笑う顔だった。そなたは、私に変わってほしくなく、苦言を言っていたのだな。もし、私が、このようなことをした私が、神に許され、生まれ変わることがあるのなら。変わらずそなたを愛せることを願いたい・・・』
 知らずのうちに泣いていた。女神も変わらず彼が好きだった。最後に彼が、かつての優しい心を取り戻してくれた。そのことだけでも、胸がいっぱいだった。私は女神、主神に近きところにある者。ならば願おう、再びあの優しい彼が、私の前に姿を現してくれることを、ただ願い続けよう。女神といえども、今の私に出来るのは、それくらいのことだった。
 次は、シアワセに、なれますように・・・・・・と。

 オレは遅い朝食をとっていた。ティララに「また目覚めないかと思ったよ〜」と文句を言われ、ごめんごめんと謝るのも楽しかった。ファルと外を一緒に歩くのも楽しかった。
 ディーヴァに稽古してもらうのも楽しかった。イリスと、武器屋の主と、パブのロックさんと、みんなと過ごす日々は楽しかった。
 ファルとティララとディーヴァでパーティを組んで、坑道や古城を散策した。
 全てが永遠であってほしかった・・・・・・。

 夢を見た。漆黒の中に眠る龍の目覚める夢を・・・・
 啼いていた。漆黒の中で、
『オマエハ、コノニンゲンヲ、マコトニ、シンズルコトガ、デキルノカ・・・・・・』
 龍の声が聞こえた。
「リト!!」

 ファルがオレを起こしていた。かわいらしいパジャマ姿だった。
「みぃ・・・・・怖い夢を見るの・・・・・・ファルの中で龍さんが暴れるの・・・・・」
 まさか・・・・・とは思ったが、この言葉で確信できた。
 この子が、数百年前に人々を血に沈めた水龍なのだと・・・・・・『龍になった少女』の主人公の少女であるということが・・・・・・・。
「お願い、一緒に来て!!」
 ファルはそう言ってオレは、
「仲間だからな」
 と余裕に答えた。
 ニパァとかわいく笑ってファルは
「うん!!」
 そういって二人は、足下に出来た水の渦に飲み込まれ、その場から消えていった。
 ・・・・・・床には水滴が少し残っていた。

第四話 眠れる真の力

 目を開けると、この場に自分がいた。
 ・・・・・・数百年前の女神の石柱に・・・・・。
 今度の自分は、夢でなく、実体を持っていた。
 青い長い髪の少女が来た。
「リト、やっと起きましたか?」
 ファルと同じ声ではあるが、しゃべり方がいつものようにみぃとか付いていない。
 たぶん、オレは、これから起こる事は、十分に理解している。未来の記憶を持った少女ファルドゥンは、ファルの時の記憶を持ったこの子は、彼女の中で暴れる龍を静めようというのだ。
「私は父の元へ戻ります。リトは、龍を静めて下さい。お願いします」
 頭を下げて街の方へとファルドゥンは戻っていった。

 不思議なことに、夜になっても、何日すぎても眠くならず、腹も減らなかった。
 たぶんここは本当に昔ではなく、ヴァーチャルリアリティの様な世界なのだろう。
 今夜、抜け出す準備をし、明け方にこっちに来るという。
 決戦は、始まった。今から剣をよく見て、振りが鈍っていないかとかを確かめる。
 ・・・・・大丈夫だろうと思った。
 前方が騒がしくなる。少女ファルドゥンがこっちに走ってきた。
 夢で見た、人々のその後に恐怖を持ちつつも、オレは龍の出を持った。
 ファルドゥンは、そのまま海に墜ちた。
 人々は、少女の落ちた場所を見る。
 光が立ちこめ、一匹の龍が姿を現した。
『我が龍の血は、汝の親の暴君を、死を持って粛正す』
 頭に声が響いた。周りの人々は、現れた龍に恐れおののいている状態で、フリーズしている。・・・・・・まるで時間が止まったかのように・・・・・。
『汝は、我が龍の血を止められるというのか?・・・我が血を持つ少女の苦しみと悲しみを、その仲間という思い上がった偽善で、理解していただけではないのか?我が血を持つ少女を、自分の戦いに利用していただけではないのか?』
 雷鳴のような重い声、龍は睨んでそう言ったが、もう一つファルドゥンの声がした。
『私は争いなどは求めません、ですが、自分が争いの元凶なら、たくさんの人々が死ぬ前に早く!!私を止めて下さい!!』
 オレは、龍に向かって言った。
「思い上がっているのはお前の方じゃないのか?彼女は、龍の血がほしい人間に追われ、そして苦しんでいる。オレはよく分かる。だから今、オレはファルを仲間という形で、愛している。仲間だから、好きになることが出来る」
『黙れ!!』
 強靱な尾を一閃。石柱が砕け、石片がオレにぶつかる、それでも立って訴えかけた。
「お前はただ、自分の血を利用されたことに怒って、少女の気持ちを自分の都合のいいように代弁しているにすぎない」
『お前は知らないのだ!!この子が、毎日毎日腕を切られ、血を出される。イタイと訴えても聞き入れぬ父!!自分の親に裏切られているのだ!!毎日泣いて過ごすこの子は、もう極限状態なのだ!!我と戦え!!強い方が正義!!昔からの習わしだ!!』
「戦えない」
『なぜ!!』
「ファルは・・・・・・仲間なんだ!!仲間を切れる奴が、何処にいる!!」
『戯れ言を!!』
 鋭利な爪で大地をひっかく、空気が揺れる。しかしオレはそこから一歩も動かない。
『汝もこの子を見捨て、利用したら壺に戻し、海に流すのだろう!!今、利用しているこの街の奴らと同じだ!!』
 氷結の吐息をはき、崖が一瞬にして凍り付く、それでも・・・・・・
「いい加減、自分に嘘を付くのはやめろよ」
『なんだと・・・・・!!』
「だってオレはさっきからこの場所を一歩も動いていない、本当に敵だと思ったら、さっさと凍結させて、その爪で斬ればいい。なのにそれが出来ないのは・・・・・・お前もオレを仲間だと思いたいからじゃないのか?」
『五月蠅い!!ならば望み通り貴様の身体を凍結させてやろう!!』
 龍は顔をオレに近づけた。しかし、出ない、出せない・・・・・・。
「ほら、お前には出来無いじゃないか」
 そう言って本来なら恐怖で凍り付くであろう龍の顔を見つめ、鼻の上を撫でる。龍は我知らず泣いていた。この龍の血も、利用されるだけでなく、仲間が・・・・ほしかったのだ。
「ファル、どんなに姿が変わっても、お前は変わらずオレの・・・・・いや、オレ達の仲間だ」
『誓えるか・・・・・これからも、この子は、お前の仲間だと・・・・・!!』
「ファルだけじゃない、お前もな」
 龍は、一声啼いた。その鳴き声は、恐怖の響きを持たなかった。
 やがてオレと龍は消え、元の世界へと戻る。
 しかし、過ぎた歴史は変わらない。後に龍は、やはり人々を殺していると語り継がれる。しかし信じよう、真の歴史は、オレが直したような、龍が、仲間を認め、姿を消し、数百年後に未来で、その仲間と共に生きているということを・・・・・・・

 目を開けると、そこにはいつもと変わらない風景。
 ファルはもう龍が暴れる夢を見なくなったらしい。
 あの龍は、自分の血を利用した人間が許せなかった。
 しかしファルと同じように、愛してくれるものが欲しかった。
 でも自分は誇り高き龍、それをそう簡単に認めるわけにはいかない。
 ファルを通して、仲間だと言ってくれた人間を、見極めようとしていたんだ。
 ファルの穏やかな寝顔を見ながら、そうオレは感じた。
 ディーヴァに稽古を付けてもらうために、外に出る。
 ディーヴァは、「起きたか、では始めよう」と言って、剣のような木の枝を細工したやつを二本持つ。こっちも同じ様な木の枝を持った。
 ディーヴァの動きを読み、流す。一閃、カキィーとディーヴァの武器をはじいた。
 ・・・・・・様子が変だった。
 いつもなら、ここまで?と言うぐらいこてんぱんにやられていた。
 しかし、昨日の今日、この様子だ、自分が強くなったというより、ディーヴァがおかしいと思う。
「どうした、いつもはオレがやられているのに?」
「すまない、何でもない」
「何でもないわけないだろ?話してみろよ、仲間なんだし」
 それで納得するかなと思えば、
「そうだな・・・・・・リト、お前になら何とかなるかもしれん」
 とすんなり話してくれた。
 ディーヴァの話によると、自分が、誰かに飲み込まれるような感じになるらしい。
 実際、なぜか用もないのに地下水道まで行って、クラゲを殺しまくっていたらしく、はっとすれば、大量にクラゲの死体があったと言う話だ。それも、戦ったときの記憶がないらしい。
 オレは、その話を聞いて、ファルの時と似ていると思った。
 だから、ディーヴァの中に何か眠っているのだと・・・・・。
 ディーヴァに聞いてみた。オレがティララの壺にのみ込まれたように、ディーヴァの壺に入ることが出来るのか?と、
 ディーヴァは早速実行した。闇が現れ、二人は飲み込まれていった。
 街には変わらず、いい天気が続いた・・・・・・。

 まるで、巨大な魔物が複数大暴れをしたような所に出た。
 時は夕方。ディーヴァはここにはいない・・・・・。
 目の前に影が出来、暗くなった。ディーヴァだと思い、顔を上げると、そこには獣のような巨大な生物がいた。そいつは言った。
『我が名は、闘神ディーヴァ、我は戦いを欲するもの!!』
 ファルの時のファルドゥンと同じくディーヴァには間違いないようだが、あまりの迫力に、(水龍ファルドゥンも負けてはいないが、心の準備が出来ているのと出来ていないのではえらい差だ)立ちつくす。
『さあ、汝の剣を抜け!!今このときを楽しもうぞ!!』
「待てよ・・・・・・」
 確かに剣は抜いた。だが・・・・・
「あんたと相見える理由なんて無いぞ。何で戦わなきゃいけない?」
『何を言う。戦うことに理由など必要無い!!』
 闘神ディーヴァは五メートルはありそうな、身長と同じ大きさの剣を振る。
 瓦礫が砕けた。攻撃はディーヴァに習ったときのように受け流す。
 だが反撃はしない。
『ふはははは、受け流しているだけでは我を倒せぬぞ』
「倒す気、無いからな」
 はっきりと答える。
『何・・・・』
 ディーヴァは攻撃をやめる。
「あんた、戦うことに理由はないって言ったよな、それじゃあ、お前はそれ以上強くなることは出来ない」
『なんだと・・・・・汝には戦いに理由があるというのか?』
「あるさ」
『ふっ・・・・なら聞かせて貰おうか、汝の戦いの理由を』
 オレははっきりとした口調で言う。
「生きるため、仲間を守るため、攻撃してくる奴のみを倒してきた。攻撃の意思がないのに、戦う魔物なんていない、人も同じだ」
『きれい事を・・・・・ではなぜ戦いがあるのだ?』
 闘神ディーヴァは退かない、無論、こっちも退く気はない。
「お互いに、守る正義があるからだ。守るものがあるからだ。それが無く、理由もなく戦うお前には、これ以上の成長はない」
『ならば!!・・・・・我は成長できぬと言うのか!!』
「出来るさ。仲間を守れよ、オレ達と協力して助け合っていけばいいんだ」
『・・・・・・我にそのようなことを言ったのは汝が初めてだ・・・・・・仲間のために戦う・・・・・か、ふふっ、悪くはないかもしれんな』
「だったら・・・・・」
『我は汝に力を貸そう。無意味な争いではなく、何かを守る争いをする』
 闘神ディーヴァは元のディーヴァに戻り、元の世界へと戻していった。

 ディーヴァの件から三日後、ファルと買い物をしたり、ディーヴァと稽古を再開したりと忙しい毎日を過ごす。
 ただ一人の少女の思いに気づかず・・・・・・。
 夜ご飯を食べ、寝ようと部屋に向かうところに、ティララから声をかけられた。
 一緒に外に出ると、夜気が涼しい。
「リトは、私のことをどう思ってる?」
 といきなり聞いてきた。
「そりゃ・・・・大切な仲間だし、パーティ唯一の回復役だし、すごく頼りになるよ」
 と答えた。あとでこの軽率な答えが、後悔されるとも知らず。
「そう・・・・・」
 と、ティララは答え、おやすみと言って部屋に戻っていった。
 オレもその後に続いた。

 今朝方、ティララがベッドにいなかった。
 まあ、彼女はいつも早起きなので大して気にはしなかったが・・・・・。
 当てもなく街を歩く。
(そろそろどこかに冒険に行ってみるか・・・・何か見つけて金を手にしないとイリスさんに悪いからな・・・・・)
 結局、図書館で時間をつぶしたあとにイリス宅へ戻った。

 夜ご飯になって気づいた。ティララがどこにもいないのだ。
 オレは、夜ご飯も食べずに外へ出る。夜気が、昨日とは違い冷たかった。
 きぃと扉を開ける音が聞こえた。後ろを見るとファルがいた。
「ファル?どうした?」
「リト、ティララさんがいないよね」
 いつものみぃが無い、かなりまじめな話になりそうだ。
「ああ、あいつどこに行ったんだろ?」
 気持ちとは反対に心配させないように明るい声で言う。
「無理してるよね」
 が、ファルにはお見通しだったようだ。
「ああ・・・・」
「ティララさん、ものすごくリトのことが好きなんだよ。みんな気づいてるよ、姐さんでさえ自分で気づいたんだから」
 その言葉を聞いてどきりとした。
 ティララがオレを?
 いやオレが馬鹿に出来る事じゃない。だってオレも・・・・・。
 だけど、相手は魔神。
 古より伝説を作っていた女神。
「リトだって好きなんでしょ?ティララさんのこと」
 無言でうなずく、気恥ずかしさが募る。
「だったら行ってあげて。ティララさん海岸洞穴だと思うから」
「ありがとファル」
 思い知った。自分はいかにティララが大切だったか、こう海岸洞穴に向かう今も、早く会いたい、彼女がいなくなるなんて考えたくない、と・・・・・
 オレは走った。地下水道から海岸洞穴に行けたはずだ。・・・・・いや、ゲートから行った方が早いか、どうせ場所の見当はついている。
 ゲートの前に立ち、海岸洞穴へと向かった。オレにはもう聞こえないだろうが、ファルは小声でつぶやいた。
「みぃ、ホント、リトは鈍感なんだから、私の気持ちも理解してよ」
 まあ、ティララさんに手助けしたのは自分なんだけどね、と言ってイリス宅へ戻った。

 かつて海姫アンフィトルテと戦った場所。
 ティララと出会った場所。
 そこに月光の光を浴びて輝く少女がいた。
 否、そこには、かつて人々が崇めた光の女神がいた。
 彼女は千年も自分を待っていたという話だ。にわかに信じられない。
 彼女に近づいてそして身体を抱きしめる。
 なぜそうしたのかわからない、ただ彼女に会ったらそうしたいと思った。
 ただ彼女の暖かさを感じていたかった。
「リト・・・・・記憶、戻ったの?」
 ティララは、光の女神から元の少女の姿に戻る。
「いや、戻ってなんかいない」
「じゃあ何でここに来たの?仲間だから?」
 声が震えている。顔を合わせようとはしない。
「違うよ。記憶や前世や昔の事なんて関係ない」
 ただ、君のことが好きなんだ。
 喋らなくても伝わる気持ち。こうして抱き合っているだけでいかに自分がティララのことを大事に思っているかが解る。ティララはうれし泣きをしながら、
「うん!!」
 と答えた。二人の姿が月光に映る。
 お互いの身体のぬくもりは暖かかった。
 やがて二人は手をつなぎ、街へ戻っていった。
Kai:恥ずかしい〜、だから恋愛系は書くの嫌いなんだ!!

 夢を見た。漆黒の中に翼のようなものが見えた。
 我は、数万年の時を通して、創世したものを見てきた。
 人は、争いを起こした。私が作ったもので初めて壊しあっていた。
 私は絶望した。世界を、元に戻そう。
 しかし、それではダメだ。汝等を試させてもらおう。
 汝等の心が、この漆黒にかなうかどうかを・・・・・

 未来の、そう遠くない未来の姿を見た。
 全てが漆黒の中へと飲まれていった。
 人が消えた。この閉ざされた島も含め、全世界の人が消えた。
 人の住む星が、一つの存在によって消された。
 無論、自分達も、消えていった。
 最後に声がした。
 漆黒にて待つ。

 四人全員体を起こした。
 イヤな汗が流れている。
「世界の・・・・・・崩壊?」
 ファルがつぶやいた。
「創世・・・・?」
 ディーヴァが、うなる。
「そして、人々が消える・・・・・・」
 ティララはオレの方を見た。愛するものも、全て消える。
「漆黒にて待つ。・・・・・あの漆黒の迷宮に入れるのか?」
 オレはそうつぶやいた。そして、部屋にイリスが入ってきた。
「皆さんも夢を見ましたか・・・・・・漆黒で待つ、と・・・・・。私は、漆黒へあなた達を導けと言われました」
 イリスは、ついてきて下さい、と言って部屋から出ていった。

「この先にあります」
 そこはカウンターの奥、普段は滅多に行かないところ。
 そこに階段があった。その下に五人、足を進める。
 その奥に、さらに扉があり、くぐる。
 そこには、ゲートと似ているものがあった。・・・・・・漆黒の迷宮に繋がっているのだろう。
「先ほど作動し始めたんです。あの夢を見てからすぐ確かめました」
 そうイリスが言ってから、
「それと、ついにこの時が来ました。私は、世界崩壊を救うためなら皆さんの手助けをしたいと思います」
「イリスさん?」
 そのゲートのそばに宝箱があり、そこから二つ、何かを取り出した。
 折れた剣の持ち手と、刃。
「この剣は、女神の使っていた・・・・・と言ってもティララさんではありません、たぶん戦乙女が使っていた剣でしょう。私の主が使っていたものです」
「女神の剣・・・・・・ヴェルダディール?・・・・・信じられない、本物だ・・・・」
 オレは驚いていた。確かに折れていたのはショックだが、それ以上に伝説と言われた剣が目の前にあることに驚愕していた。
「コレを直すには、魔神の犠牲が必要です。だから私は、この剣となって、皆さんと共に戦います」
「え・・・・・てことはイリスさんは・・・・・」
「はい、私も魔神ですよ」
 四人ともが驚いている中、イリスは精神を集中する。イリスが輝きだしたとき、はっとした。・・・・・・コレを行えばイリスは消えてしまうのだ。
「やめてくれ!!やらなくてもいいんだ!!」
 オレは必死でやめさせようとする。ファル、ディーヴァ、ティララもやめさせようとするが、イリスに近づく事が出来ない。光が爆発した。
「イリスさん!!」
「も〜、うっさいわね〜イリスならちゃんと生きてるわよ」
 と、イリスとは違う声が聞こえてきた。光が退くと、そこには、坑道や古城を探索したときにお世話になった、カーミラという女性がいた。この人も魔神らしく、ティララとはかなりの知り合いらしい。
「カーミラ!!」
 ティララが駆け寄る。
「ああ、ティララ、この修復中止ね。ここに魔神が五人もいるんだからみんなで少しずつ出し合えばいいじゃん?」
 イリスはぼぉーっとなっていた。直す行為を止められたので、何が起きたか解っていない。
「ほら、調停のオーブ、こいつを使って魔力を複合して剣に注げばいい」
 そういってカーミラは、占い師が使うような珠を持ち出した。
「ほら、イリス、しっかりしなよ」
 そう言ってイリスは、はっと戻って、そして五人が修復を始めた。
 魔力がオーブに集まり、そのオーブから閃光がほど走る。
 そしてそこには、光り輝く一つの剣があった。
 女神の剣ヴェルダディール。
 オレはそれを手にとって眺めてみた。
 ここで振れば、剣風だけで全てが吹っ飛びそうな力があった。
「リトさん、あなたの剣です。それを使い、世界崩壊を防いで下さい」
「私からもお願いするわ。私らはカウンターの店員なんだし、戦う力がないけど、祈ることは出来る。だから、がんばって、応援してるわ」
 イリスとカーミラが言う。
「ありがとう、カーミラ」
 ティララが、カーミラに言った。
「あらら、ティララ、私らは敵同士よ〜、お礼なんて言わないものよ〜」
 と、照れ隠しのようにカーミラは言った。
「出発は明日にして、今は準備をしてきて下さい」
 イリスの提案に、一同はうなずき、それぞれの時を過ごすことにした。

 初めに武器屋に行くと、エタニティーズが、かつての・・・・・とまではいかないが、元に戻ったらしく、それを装備、これでオレは、ヴェルダディールとエタニティーズを装備、シールドには、ディスアインという、金の盾を持った。守護石にトリスメキドス、装飾品には、星の雫を装備した。ファルは、古城から繋がっていた冥界の門という場所で手に入れた、カドゥケウスという杖を装備。これは両手持ちでシールド無し、服はカルラの羽衣を装備、守護石に、隕石のかけらと言われるメテオを、装飾品に、マジカルハットを装備した。
 ティララは、フェアリーテイルという精霊の弓と、スピリットバリアという腕につける軽い盾、カーミラの所で交換して貰ったエンジェルガープ、守護石にはターコイズと、オレに買って貰ったサクランボの髪留めで、髪を後ろにまとめている。ディーヴァは、サンオブジャスティスという光の剣とファーウェルという風の剣を装備、服は精霊の衣を装備、暴走が絶えなかったときに自分で買った雪兎の瞳と海岸洞穴探索時に見つけた人魚の首飾りを装備した。
 イリスから、傷薬と薬草を大量に貰い準備万端、イリスの家で早々に寝ることにした。

 ザザーン、ザザーン・・・・・・・
 寄せては返す波の音・・・・・・。
 漆黒の中にいる者・・・・・。
 ・・・・・ナンジハテニシタソノチカラヲダレガタメニツカウ・・・・・・・
「どうしたの、こんな夜更けに?」
 いつの間にかティララが横にいた。
「いや、別に・・・・・ただ、明日、世界を救うために漆黒の迷宮に行くと考えると、眠れなくて・・・・・」
「ダメよ、ちゃんと寝なくちゃ・・・・・・と言いたいけど私も同じなのよね」
 二人して夜の海を見る。
「星・・・・綺麗ね」
「ああ」
「私とどっちが綺麗?」
「ベタだなぁ・・・・普通聞くか?そんなこと」
「ふふっ、ごめんなさい」
 そう会話していると、「みふぅ・・・・・」とかわいらしいあくびが聞こえて、「ばか、こんなとこであくびするな!!」という小声が聞こえた。
 はぁとため息をはく。
「ファル、ディーヴァ、出て来いよ」
 二人がすまなそうに出てくる。この場に明日、漆黒の迷宮の向かうメンツが揃った。
「明日、救えるといいな」
「みぃ、まだ、戦うとも決まってないけどね」
「大丈夫、みんながいれば出来るわ」
「確かに、私達は最強の仲間だからな」
 明日、歴史を変えるがために、漆黒に向かう。
 創造主に、訴えかけるために・・・・・。

 夜が明けると、すっとした気持ちで漆黒の迷宮に繋がるゲートの前に立つことが出来た。
「彼の者と呼ばれる創造主は、魔神でも抗えない技を持っていると聞きます。どうかお気をつけて・・・・」
 イリスに見送られゲートを開く、そして、漆黒へと向かった・・・・・・。

第五話 漆黒

 宙に浮く感じが何とも嫌だ。
 深い深い谷の中、落ちているのか、浮いているのかさえワカラナイ・・・・・・。
 ただ言えることは、
 この場に四人全員いることだ。
 やがて、粒のような光が現れ、飲み込まれた。

 そこは、広い・・・・・・まるでコロシアムのような場所に出た。
 頭上でごぅっと音がする。見上げるとそこには巨大な金色の龍がいた。
 四人の目の前に降りる。
『ほぅ、ファルドゥンか・・・・・・久しいな・・・・・・』
 龍はいきなりこう言った。
 ファルは、ファルとは思えない口調で、
『ふん、天界龍アドーナか・・・・・貴様のせいで、この娘は不幸になった』
 アドーナと呼ばれた龍は静かに言う。
『ぬかせ、結果はどうあれ、その娘が望んだことを実行したまで』
 ファルは吼える。
『ふざけろ!!貴様がこの娘の人生をメチャクチャにした!!』
『ふん・・・・ここで復讐でもするのか?』
『いい案だ・・・・・そうさせて貰おうか・・・・・・』
「ファル!!」
 リトは叫んだ。無駄な争いをしているヒマはない。
(みぃ、リト、アドーナは、ここの番人。倒さないと通してくれない)
 本物のファルの声がする。
(ファル?)
(先に行って、私はすぐに追いつく。早くしないとみんなドカ〜ン!!だよ)
(ファル!!)
 無茶だ・・・・・あんな龍にファル一人で勝てるわけがない。
 明らかに先に行かせるための時間稼ぎだ。
(私を仲間と認めてくれたのはお前だ、リト。お前が私に信じる心を教えてくれた)
(水龍・・・・・ファルドゥン・・・・・?)
 ファルドゥンの声がする。目の前では、蒼髪の少女と、金色の龍が対峙している。
(急げ!!私がこんな老いぼれ龍に負けると思っているのか!!)
 心の中で(すまない・・・・・)とつぶやき、コロシアムの反対側を見る。
 鉄格子も何もなく、通れるようにはなっている。
「ディーヴァ!!ティララ!!行くぞ!!」
 そう叫んだ。声が少し震えていた。なぜか涙が出る。
 ファルは咆吼した。一気に姿が変わり。水龍の・・・・・真の姿へと変貌する。
 ・・・・・・・ブースト状態。魔神の力を最大限に高める。
『させぬ!!』
 アドーナは、リト達に向けて火炎を吐こうとする。
『どこを見ている。お前の相手は私だ』
 大地を揺らす羽ばたき。爪がアドーナを襲う。
『くっ・・・・・・・・』
 アドーナは間一髪で回避、飛翔する。
 リトはうまいこと出口へと滑り込んだ。
(みぃ、リト、ティララ、姐さん、まったね〜)
 そう声が聞こえた。最後に・・・・・・
(・・・・・・・・さようなら、今まで楽しかったよ・・・・・・)
 リトは、こらえきれなくなって、コロシアムの方に振り向く。
 ガシャァァァァァァァァァァア!!
 音を立てて、コロシアムへの道がふさがれた。ファルがやったのだろう。
「ファル・・・・ファル?・・・・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

『ふん、うまいこと計ったな』
『何の事やら・・・・・。私はお前に復讐したかっただけだ』
 死の戦いが繰り広げられた。
 観客はいない。しかし、数万もの人に応援されている気がする。
 出来るなら・・・・・生きてもう一度会いたい!!
 ファルドゥンは爪牙をふるった。

 止まっていられない・・・・・・・。
 ファルが命を懸けてまで救おうとしている世界・・・・・・・・・。
 誰かもワカラナイ人のシアワセ・・・・・・・・・。
 世界は・・・・・壊させない・・・・・・・!!

 リトはもはや気力だけで歩いているようなものだった。
 ティララは「急がなくても大丈夫だから。休みましょうよ」としつこく言ってくるが、もはや耳に届いていない。
 ファルを、よくもファルを・・・・・・・・
 ふざけた創造主をこの剣で斬らなきゃ気が済まない。
 その気力で前に進んでいた。
「気をつけろ、誰かがいる」
 ディーヴァはそうつぶやいた。
 警戒してゆっくりと進む。そこには、またもやあのコロシアムが・・・・・・!!
 目の前に立っているのは少女。年は、リト達よりも、いくらか下に見える。
「まさか・・・・・運命の女神スクルドだと!!」
 ディーヴァは剣を構える。
 リトも構えるが、視界が薄い。
「ふっ、リト、休んでいても構わないぞ。こんな奴、私一人で十分だ」
 ディーヴァには慣れない嘘。ティララは悟った。
「あら、破壊の女神さんは、ずいぶんと余裕なのねぇ〜・・・・・。私によってあなたの同族は何人殺されたかしら・・・・・」
 スクルドは恐ろしいことをつぶやいた。リトは警戒して構える。
「ふん、私は違う、貴様ごときの、成長の無い『ザコ』とは大違いだ」
 ティララは、リトを動かそうとする。
 しかし、動く気はない、ここで戦う気らしい。
「リト、お前は見ているだけでいい。手間はかからん」
「いい度胸ね・・・・・・それは身の程知らず、とも言うのよ」
 ティララはトアーをリトに向けて放った。
 リトは疲れもあり、すぐに気絶する。
 それをティララが運ぶ。
「あらら、ティララサマ。どちらに行こうと?」
 スクルドは、ティララに向けてハームの呪文を唱える。
 ディーヴァは、間に滑り込んでそれを阻止。
「あなた、私達神族が得意な魔法は、知ってるわよね・・・・・・」
 スクルドはそうつぶやいてディーヴァを睨む。
 ティララは必死で運んだ。
 コロシアム出口に行った。
 すぐさま後ろが破壊され、戻れなくなる。

「リーシェって魔法よ・・・・闇のあなたには相当痛いものがあるわよ・・・・・」
「くっ・・・・・・・・・・・」
 スクルドのリーシェが放たれると同時に、ディーヴァはブーストした。

 頭に声が聞こえる。
(リト、お前は私に戦う意味を教えてくれた。私はお前達『仲間』のためと、世界のために戦う)
 いやだ・・・・・ディーヴァ・・・・・お前まで・・・・・・死ぬのか・・・・・・・
(何を言っている。死ぬために戦うんじゃない、生きるために、生かすために戦うのだ)
 ファル・・・・・・ディーヴァ・・・・・・

 夢を見ていた。
 苦しみ足掻き
 各々が信ずる神の名を
 つぶやきながら・・・・・・
 それでも人は死んでいく。
 最後に残ったのは
 絶望・・・・・・
 繰り返し、絶えぬ争い。
 作り出されたのに、本人達によって削られていく。
 人は無意味か?
 私には判断しかねる。
 お前はどう思う?リトよ・・・・・・

 ピターン、ピターン
 水滴の音が聞こえる。
「起きた・・・・・」
 隣にいたティララがつぶやく
「ここは・・・・・?」
 明らかに今までと雰囲気が違う場所。
「創造主と話はした。でもダメだった」
 創造主・・・・・つまり、もう最下層か・・・・・。
「リトが目が覚めてからもう一度来いって」
 はたと思ったことがあった。
「ファルは?ディーヴァは?」
 ティララは首を横に小さく振る。
「そんな・・・・・」
「リト・・・・・」
 黙り込む・・・・・長い沈黙。
「もう止めよう」
 身体が震える。寒いわけではないのに。
「なにを・・・・・」
 ティララは悲しそうな、不思議そうな顔をして聞いてきた。
「もう止めよう、世界は滅ぶ運命だったんだ。変えられるわけがない」
 身体がガチガチ震える、たぶん、間違いなく恐怖・・・・死にゆく運命の者の恐怖。
 ティララはすごい怒りの形相をして、オレの胸ぐらをつかむ。
「何ふざけたこと言っているのよ!!ファルやディーヴァが命を懸けてまで守っている世界を、何もしないまま滅ぼすの?心が痛まないわけ!?」
 何も言えない。反論の余地なんて無い。臆病な自分。
「ファルやディーヴァは、世界を救いたいから!!だから身を犠牲にした。私達に世界の運命を託したのよ!!」
 ・・・・・・・・・・・・胸に顔を埋め。ティララは泣いた。
「ばかぁ・・・・・悲しいのは、リトだけじゃないんだからぁ・・・・・・私だって、私も怖いんだから・・・・・・でも、簡単にあきらめないでよ・・・・・」
 しばらくそうしていると、不思議と安心した。恐怖が無くなっていた。
 彼女は泣きやんでいた。
「この髪留めってさ。オレが買ってあげたんだよね」
 今、もし世界が滅んでも、大切な人との思い出を、長い時間が過ぎても忘れないようにたくさん作る。
「うん、ケチなリトがたった一つ私に買ってくれたやつ」
 ティララはいたずらっぽく話す。
「ひどいな・・・・・これでも結構サービスした方だと思うぞ」
「これでサービスした方なら、ケチですよ〜」
「あはははは・・・・・・」
 笑いが途切れる。遊んでいる事なんて出来る状況ではない。
「行こうか」
「うん」
 手をつなぎ、離れないように。
 創造主の前に来た。

「世界崩壊は実行する」
 いきなりそう言った。
「待てよ!!何でいきなり崩壊なんてさせるんだ!!」
「・・・・・・・」
「答えられないのは理由がない証拠よ」
 オレとティララは、必死で説得をする。やがて創造主は言った。
「ふむ・・・・・世界が滅ぶ意味、汝等に理解して貰おう。我によって生み出されたものが、一つ一つ思いを込めて生み出した人が、殺される悲しみを」
「私は、これ以上の悲しみを背負っている」と言った後にスクリーンが出てきた。
 ボロボロのファルが、力なんてほとんど無いくせに必死に岩をどかし、先に進もうとしていた。
 後ろにはアドーナの砕けた姿があった。
『みぅ〜、もっとここを壊すのは手加減すればよかった・・・・・』
 そうぼやいて、また岩を砕いて投げる。手は彼女のかわいさには似合わぬ朱。血でぬれていた。
「ファル・・・・・」
「生きてたんだ・・・・・」
 オレとティララは胸をなで下ろす。そのほっとしたのもつかの間。
 創造主・・・・・彼の者は、何か言葉をつぶやいていた。
 オレには、その言葉がはっきりと聞こえた。
 ・・・・・・・・ミズノリュウヨ、ナンジノヤクメヲオワラセヨウゾ・・・・・・!!
 突然スクリーンに映ったファルは、電気が流れたように身体をピンっと伸ばし、がっくりと倒れる。ゴロゴロと力無く岩山から落ちていった。
 ティララが凍り付く。
「貴様!!何をした!!」
 オレは叫びながら、ヴェルダディールを抜く。
「世界崩壊の理由、理解できたか?」
「出来るか!!ファルにあんな事をしたのは、お前だな!!」
「そうだ。なぜ理解が出来ない。大切な仲間を殺されたのだぞ」
「どういう意味がある!!」
 倒れたファルを映すスクリーンがスライドして、彼の者の横、翼のさらに横の所に行った。
 また目の前にスクリーンが現れる。
 ディーヴァが、廊下を走っている。魔物はいない。
 この姿にほっとしたが、まさか・・・・・と思い彼の者の方を向く。
「愚かな・・・・・ここを探しているのか・・・・・永遠に入れぬと言うのに・・・・」
「まさか・・・・・おい!!やめろ!!」
 翼が攻撃を仕掛け。オレは、数メートル後に吹っ飛ばされる。
 ティララが近寄り抱き起こす。黙ってスクリーンを見ることしかできなかった。
 ヤミノトウシンヨ・・・・・・
 止めてくれ・・・・・・・・。
 ナンジノヤクメヲオワラセヨウゾ・・・・・・・!!
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 叫び声もむなしく、スクリーンのディーヴァはなすすべなく倒れた。
 ヴェルダディールを完全に構える。今は剣に頼りたかった。
「まだ、世界を残そうと言うのか・・・・・・」
「あたりまえだ・・・・・仲間が命を懸けて救おうとしている世界、ティララが教えてくれた。オレは逃げない、お前を倒してでもくい止める」
「世界や、存在がなければ何も感じない。無理をする必要もない。辛いことは感じない」
「・・・・・・・」
 心が動く、でもダメだ。ファルやディーヴァが、守ろうとした世界。絶対に救う。
 剣を正眼に構えた。いつでも戦闘が出来る。
「ふむ・・・・・ならば、そいつも消すか」
 ビクリとする。そいつ、とは無論・・・・・・ティララ。
 ティララはぼぅっと立っている。ファルやディーヴァの死のショックが抜けていない。
「さて、私の絶望とどっちが勝るかは、微妙な所かな・・・・・?」
 楽しそうに、歌うように創造主はつぶやく
「おい・・・・・それだけは止めてくれ・・・・・」
 ヒカリノメガミヨ・・・・・・
「止めてくれ・・・・・お願いだから・・・・・・」
 ナンジノヤクメヲ・・・・・・
「くっ、ティララ!!」
 ぼうっとしているティララの方に走る。
 そして、今まで、まともにしてやれなかったことをしてあげる。
 こんな状況だから、こんな事しかできないけど・・・・・・
 体当たり並の勢いで、ティララに駆け寄り、抱いてあげる。
 ティララの身体は暖かかった。
 ティララの最後に思い出が出来た。
 キミが死んでも、それでも世界は救うよ。ティララ。
 いや、ファル、ディーヴァ、お前達の分もがんばってやる。
 たとえこの身が砕けても・・・・・・。
 ティララは前のめりに倒れた。そのままオレに支えられる格好になった。
 最後の死のセリフを言い終わったのだ。
「いかなる気分かな?世界崩壊の道の方がいいだろ?」
 迷いはない、涙はない、抗うような力もない。
 でもあるものはある。
 仲間が支えてくれている。
「何でオレにわざわざ聞いたんだ?」
 これは確認だった。なぜオレのような一般人に聞いたのだろうか?
「我によって作られた人とはいえ、勝手に壊すのは忍びない。感情があるのだからな。世界崩壊をお前を代表として確認するためだ」
 そんな下らない理由で・・・・・ファル、ディーヴァ、ティララを殺したのか・・・・・・
「では答えを聞こう。世界崩壊を認めるか?」
「決まっているだろう、『いいえ』だ!!」
 ティララに買ってあげたサクランボの髪留めを前に出す。
「ティララは、オレがこれを買ってあげたときすごく喜んでいた」
 ファルと話をすると楽しい。ディーヴァと稽古をすると充実感がある。
 ユーナ・ユーノ姉妹に本を渡すと感謝された。パブでは、いつも明るい笑いに包まれていたロックさんが、すごい幸せそうだった。
 ほかにも・・・・・みんなの幸せな顔が浮かぶ。
「オレは、戦いや死、恐怖もあるけど、みんな必死で幸せを得るために日々の生活を戦ってる。お前はそれも取り除こうとしている!!」
「・・・・・・」
 サクランボの髪留めが発光する。光はどんどん膨れ上がり。真っ白な空間へとなる。
 そこに人影が出来た。
 リトよ・・・・・・かつて女神を愛し、変わっていく自分に絶望した汝が、私を越えるというのか?おもしろい、だがそれも無意味な事よ!!

 戦闘が始まる。
 創造主は、魔法を唱える。かわす。ファルとの魔法回避特訓の成果だ。
 創造主は舌打ちをして、剣を出す。難なく受け流す。ディーヴァとの特訓の成果だ。
 創造主はさっと手を高く挙げ光を呼ぶ、がティララの守護魔法のおかげでダメージがない。
 エタニティーズとヴェルダディールが共鳴している。
 武器屋の親父さんが、魂込めて打った鎧。イリスが命を懸けようとして出来た剣。
 敵の攻撃を流すエタニティーズ。
 反撃を出すヴェルダディール。
 やがて、人影の方が膝をついた。
「フフフ・・・・・リトよ。私に勝ったか・・・・・」
「ああ、みんながいなかったら、こうはいかなかった」
「だが、私の方が一枚上手のようだ」
「何だって?」
「フフフ、死後の世界というものがあるのなら、そこで会おう。・・・・・もっとも、私の創造した空間は全て消え失せるがな・・・・・」
 そう言って人影は消えていった。
 彼のセリフは間違いない・・・・・・世界崩壊・・・・・・。
 どうすることもできなかった。ごめん、オレ、守れなかった。でも、精一杯やったって、認めてくれるよな。
 世界の・・・・・・・・・どこかで・・・・・・・・・・・・・・・。

エピローグ

 白い靄の中にいる・・・・・・。
 意識が遠くなる・・・・・・。
 記憶が全てかき消される・・・・・・。
 最後の時に、ふと、思い出した・・・・・・。
 あの優しさ・・・・・・。
 あの思い出・・・・・・。
 あの冒険・・・・・・。
 あの料理の味・・・・・・。
 あの最初で最後のプレゼント・・・・・・。
 あの優しい笑顔・・・・・・。
 そして、キミの、君への思い・・・・・・。
 オレは、あの世界で、一回しか言っていない・・・・・・。
 愛する者と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「どうしたの?」
 少女ははっと顔を上げる。
 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン・・・・・・・。
 定期的に繰り返す音。
 ここは電車の中。
 少女は、友人と買い物をしていた。今日は日曜日。
 そりゃあ、日々は辛いけどさ、こういう楽しみも持っていいよね。
 機械的に毎日同じ事をしているんじゃあ、気がおかしくなっちゃうよ。
 ・・・・・・あれ、でも、私、何でこんな事を思ったんだろう?
 いつから哲学者になった?・・・・・違う違う、私は、普通の高校生ですっ!!
 でも、やっぱりこれを買ったからだろうか・・・・・?
 不思議な感じがした。絶対に、絶対に、私のものにしなきゃいけないって。
 友人は「この年でサクランボの髪留めはどうかと思うよ」と言っていた。
「うるさいわねっ買っちゃダメなの!!」と、冗談めいて話す。
 電車が止まった。
「ついたよ。降りよっ」
 そう言って私は電車を降りた。
 後ろから「待ってよ〜」と友人の声が聞こえた。
 電車を降りる時、一人の少女とすれ違った。
 あまり身だしなみには気にしていなさそうな少女。
 その少女はある人の名前をつぶやいていた。
 リト・・・・・・と。
 周りの人には聞こえないだろうが、私には、はっきりと聞こえた。
 ぼ〜っと立っていたらしく、友人が「どうしたの?」と聞いてきた。
 「ううん、大丈夫」と答えて、駅の外へ出て家路につく。

 途中で友人と別れ、家へと向かう。
 時々、煩わしく思うけど、私には、大切な家族がいる。
 家へ入ろうとすると、中学生の女子が、二人組で歩いている。
 日曜日でも、中学生は学校があったらしい。ご苦労様。
「だからさ、お誕生会を開こうって話になったの!!」
 長い髪の方の明るい少女が、誰かの誕生日が近いのか、そんな話をしている。
「誰の?」
 短い髪の物静かなイメージを受ける少女は、そう聞いている。
「うっ、そりゃあ、アレよ・・・・・誰だろう?」
「も〜、自分でふっといてそれ?あなたには彼氏いないでしょうが!!」
 それとも出来た?とショートカット少女が最後に付け加える。
「う〜ん、告白は多いけど・・・・・・どれもダメ、忘れられない人がいるの」
「誰?運命の人?」
「あぐぅ・・・・・・誰だろ」
「はぁ(呆れ)・・・・・・あっ、こんにちは」
 家の玄関で、二人の話を聞いていたら、ちょうど通り過ぎたらしい目を合わせると、ショートカット少女が挨拶をした。
「こんちわ〜」
 ロングヘヤー少女の・・・・・どこかであったことがある?少女も挨拶をする。
「も〜、もっとちゃんと挨拶しなよ」
 ショートカット少女がツッコミを入れて、「すみません、では」
 と言って去っていった。

 今の人・・・・・どこかで・・・・・?
 ロングヘヤー少女はそう思いながら、今を楽しく生きる。

 夜、夕ご飯を食べて、二階へと上がる。
 自分の部屋のベランダに出ていた。
 今日は珍しく、星が輝いている。
「リト・・・・・・?」
 電車の時にすれ違った少女が、つぶやいた名前。
 サクランボの髪留めを見つめる。
 なぜか、なぜだろうか、次から次へと涙があふれた。
 大切な何かを忘れてしまった。
 大事だったのに!!
 すごく、すごく、好きだったのに!!!!!!!!!!!!!!!!
 なんで!!!!なんで、思い出せないの!!!!!!!!!!
 ・・・・・前世のことだから。
 少女は知らない、自分の前世で、世界一好きな人がいたということを・・・・・・。
「あっ・・・・・・」
 流れ星が流れた。
 少女趣味と思われるかもしれないが、この時はなぜか、とっさに願いを唱えていた。

「あっ流れ星だ〜」
 ロングヘヤーの少女は、『とりあえず、お誕生会計画!!』のノートを書いていて、ふと窓の外を見たときだった。
「なんだか・・・・・悲しいね」
 なぜだか、少女はそう思った。

「私は、何がしたい?どうすればいい?」
 夜空を見上げながら、少女はつぶやく。
 一陣の流れ星が流れた。
「・・・・・・そうだな、あわてることはない、答えはそこにあるのだから」
 一人つぶやきながら、また歩き出した。

 この世界に住む、全ての人々が、その星を見たと言われている。

 この世界に住む、全ての人々が、
 暖かく、優しく、幸せに、
 長い時間がかかっても、
 どんなに時間がかかっても、
 例え、苦しいときがあっても、
 例え、涙を流したいときがあっても、
 例え、挫けそうになっても、
 例え、嫌になるときがあっても、
 例え、一人孤独になっても、
 例え、悲しいことがあっても、
 例え、死にたいと思っても、
 例え、争いが消えなくても、
 みんな、みんな、みんなが、
 幸せに、なれると、いいなぁ・・・・・・・・・・。

 END。

★アフターA 龍になった少女

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