とある魔神の生まれた訳。

著者:Librrow Aquaride

ファルとティララにはどうやって魔神になったか、または生まれたかが書物に残っている。
しかし、闇の女神だけその時の書物がないのだ。
仲間さえも知らない、甘くて切ない友情の物語を・・・。


「そういえば、ディーヴァの書物にはどう生まれたかって書いてないよね」
ティララがふとしたことに気が付いた。
「どっ、どう生まれたかなんてどうでもいい!わっ、私もティララと同じように生まれた!それでいいだろ!!」
「何慌ててるのよ〜。別に聞いたっていいじゃないー?」
「慌ててなんかいない!」
あたふたして、ティララから視線を他の方へそらす。そんなことは思い出したくない。
くだらない。そんなこと知らなくてもいい。誰だって、知られたくない過去がある。ディーヴァはそう考えていた――。
「きっと、辛い夜があったのね」
「あのなぁ・・・」
ティララの慰め殺しの一言が炸裂した。しかし闇の闘神にそんな言葉は残念ながら通用しない。
「みぃ〜、何話してるの?」
ファルである。
「ああ、ちょっとしたくだらん話でな・・・」
「くだらないって何よ」
「ふぃ〜、喧嘩はやめてなのー」
「ファル、聞いてよー!」
ティララがファルに愚痴(?)をこぼし始め、1人話し相手がいなくなったディーヴァは、まじまじと思い出していた。

そういえば、あの時だったな―――。


ティララが一度破滅を起こし、ようやく家が建ち始め、人間の数も多くなってきた頃だった。
ある田舎町、町が見える草原で2人の女の子が座っていた。
「風が気持ちいいね」
「そうだ。チェリカ、私の髪に3つのみつ編みしてくれない?こうなびいていると邪魔だから。いい?」
「うん。もちろんだよ。」
とても長い黒髪の女の子らしい。スカイブルーを思わせる髪の色をしている女の子がチェリカらしい。
チェリカは早速少女の真中の髪を束ね、編み始めた。束ねた髪はあっという間にみつ編みになった。
「ひとつでーきたっ。じゃあ残り2つもするね」
「うん」
とても平和なワンシーンのはずだった。チェリカが右の髪を束ね始めた時だった。
「おい!」
2人はドキッとした。少女とチェリカをいじめている貧乏な家の男の子だ。
「俺様の畑で何やってんだよ!」
それを聞いたチェリカはきつく言い返した。
「ここはあんたの畑じゃないわ!ここは誰でも足を踏み入れることができる草原よ!」
「あんた達は入ってはいけねぇんだよ・・・!わかってるか!」
男の子が短剣を取り出した。
「!?」
「早くここから出て行け・・・!さあ!出ないとあんたの髪を切って売りに出してやる!そうだなー、その青色の髪は珍しいからな、高く売れるだろうな。けっけっけっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
2人が黙っていると、ついに短剣を構えて向かってきたではないか。
「切られていいのかぁ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぃゃぁー」
チェリカは泣き出しながら逃げていってしまった。悲鳴が遠くに響く。
「おっと。恐れをなして逃げたか。あとは・・・、あまり価値はないけど、あんたのを頂くか・・・」
1人取り残されてしまった少女。自分は武器を持っていない。
「い、いやぁっ!」
少女も慌てて逃げた。しかし足は遅い。運動なんてあまりしない。そう、少女は金持ち生まれのお嬢様なのだ。
草原を降りたすぐの煉瓦積みでできた家の壁に追い詰められた。
「さあてと・・・。やるか」
「やめて・・・、ぃゃ・・・、いやあっ!!」
必死の抵抗も虚しく、見事に髪をばっさりと切られてしまった。しかし、最後にチェリカが編んだみつ編みは切られずに済んだ。
「どうせみつ編みなんてくしゃくしゃで売れもしないからな、それだけは残してやるぜ。あばよっ!」
少女は自分の髪を触った。やはり長い髪は切られてしまっていた。
「うっ、ううっ・・・」
少女は泣き出した。金目の物を取られ、殴られたり悪口を言われたりし、今度は一番大事にしていた長い髪までも切られてしまった。
最悪だった。夢であってほしい。泣き疲れて、一眠りすれば、いつものメイドが私を起こしてくれるはず。
少女はそのことを願ってずっと泣いた。ただ悲しみに暮れた。


数時間後のことだった。
「大丈夫ですか?」
少女の家に雇われているメイドの誰かが少女を発見した。
少女は思わず顔を上げた。
「マ、マーフィー・・・」
マーフィーという若いメイドだった。いつも少女と遊んでくれたり、勉強を教えたりしている彼女にとってはなくてはならない存在である。
「・・・髪を切られて、あの田舎のあの子の仕業ですね。余程悲しかったのですね。髪もすっかり灰のような色になってしまって・・・」
灰のような?切られたときはまだ黒かったはず。
少女は自分の切られずに済んだみつ編みを見た。確かに灰色に変化している。もう少しで真っ白になってしまうところだった。
「そうですね・・・。私でよろしければ、その髪を綺麗に仕上げて致します」
「・・・・・・・・・・・・・」
こくりと頷き、そうすることにした。
家に帰ると誰もがその髪に驚いた。色までも変化してしまったからには誰も驚かないほうが不思議である。
「私にお任せください」
「うん・・・」
マーフィーは切られた部分をふわりと仕上げ、みつ編みは残すことにした。
「どうですか?ご趣味合わなければ申し訳ございません・・・」
鏡を見るととても素敵な髪型になっているではないか。

しかし・・・、灰色の髪、真中だけみつ編み。まるであの女神ではないか・・・。
「ありがとう。マーフィー!」
「これで最後のプレゼントも完成ですね」
「え?どういうこと?」
「実は今日あなた様のお父様と私の父が喧嘩しましてね・・・。『ここを出て行ってやる!』と父が言い出したので私も・・・」
「どうして?そんな・・・」


歳が10にも満たない少女はついに一人ぼっちになった。
家にいたメイド達はみんな出て行った。そして少女の両親はいつものように遊びに出かけた。
両親は夜が明けないと帰ってこない。
1人でとても寂しかった。明かりもつけずに暗い自分の部屋の隅で泣いた。
「そうよ・・・。もうこんな裕福な家庭はいらない。私にあるすべてもいらない・・・。そうよ・・・、ティララ様が一度世界を滅ぼしたように、もう一度滅びればいいんだわ今度は自分も一緒に消滅してしまえばいいのよ・・・」
しばらく泣いていると、あることに気が付いた。
少女は鏡を見た。飾りが鮮やかな鏡には、自分しか映っていない。当たり前である。しかし、薄く何かのシルエットが見えた。
同じ灰色の髪をしていた。
その時だった。
(お前が私の到来を願ったのか?)
低い声が少女の頭の中に響いた。
「い・・・いやぁ・・・」
少女は思わず顔を伏せた。
(私はお前の味方。私もお前の願いによって生まれたのだ)
「私の・・・、願い・・・?」
そのとき、自分の家の前の木が見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
少女はスコップを持ち、木のすぐ下を掘り始めた。シンプルで何も飾りがついていないドレスを汚しながら掘りつづけた。

すると、土から大きな壷が見えた。
「!」
壷は紫の色を示している。
「壷・・・」
少女が壷を開けた。すると中から自分と同じ髪型をした女性のような人が出てきた。両手に短剣を持っている。
「私の名前はディーヴァ。お前の願いによって生まれた」
まるで未来の自分を見ているみたいだ。成長したらこのようになるのかな。
少女はただ見ているだけだった。
「お前は『もう一度滅びればいい』と言ったな。その願いを――」
叶えてやる、と言おうとした。しかし、少女には迷いがあった。
「待って!怖いの・・・。すごく怖いの・・・」
「大丈夫だ。お前はただ見ているだけでいい」
「そんなこと言ったって・・・」
「お前は滅びに恐れおののいている。大丈夫だ。怖くはない」
「でも・・・」
ついには泣き出してしまった。
「本当に怖いのだな・・・。大丈夫だ。1人で孤独だったのか。この家に私がいる」
「ディーヴァ・・・」
そっけなく、冷たい表情。でも想いはある。意思を持った闇の女神は1人の少女によって生まれた。
「私は使命を果たさなければならない。大丈夫だ。お前に惨いことは決してさせぬ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして夜が明けた。
少女は疲れて寝てしまった。
神族として生まれた闇の女神は彼女をベッドに寝かせてやった。
「許せ・・・。私はいずれお前を裏切ってしまう・・・」


「う・・・うん・・・」
少女の見ていた景色は恐ろしいものだった。夢の世界だということは知っていても、怖いのは同じである。
「少女様。戻って参りましたよ」
「あ、マーフィー!」
炎の中からマーフィーが現れた。しかし、マーフィーの優しそうな表情を見せているが、目つきがおかしい。
「マーフィー・・・。変だよ・・・」
「何がおかしいんです?いいですよ。今から地獄に旅行に行きましょう」
「え・・・何言ってるの?」
マーフィーが恐ろしい力で少女を引っ張っていく。
「いや・・・いやぁーっ!!」
「!!」
少女は悪夢から目覚めた。闇のもたらす夢はやはり怖い。
少女は数日間寝ていた。目覚めると夜だった。しかしいつもの夜とは違っていた。
窓の向こうが赤く光っている。今までこんなことはなかった。火事でもあったのかな。
「!!」
少女が窓を開けると周りは火の海だった。そして火の海の中にひとつ、大きな影と赤い目があった。
大きな剣を持った猛獣のような魔神。真っ白な毛が強く印象に残る。
燃え盛る炎の中でその猛獣は剣を振り回し、大きく鳴き声のようなものを発した。
「まさか・・・!」
小さな少女はあの女神を思い出した。
「ディーヴァ!ディーヴァ!」
広い家の中を駆け回った。女神の名を呼びながら――。
しかし見つかるはずがない。
少女は家の玄関から外へ出た。
「ディーヴァ!ディーヴァでしょ!もうやめて!お願い!」
そう叫んだとたん、白い猛獣は少女に視線を向けた。
「あ・・・、あ・・・」
怖くなった。
しかし白い猛獣は消えている。そして炎の中から少女と同じ髪をした女性が現れた。ディーヴァだ。
「何故私を止める?私はお前の願ったことを――」
少女は叫んだ。
「わかってる!わかってるの!私が全て――、全て悪いのよ!!あたしが・・・」
「それでいいと思って――」
いいのか、と言おうとした瞬間、燃えた家の柱がディーヴァに向かって倒れ始めた。
「ディーヴァ!危ない!」
少女はすかさずディーヴァを突き飛ばした。しかし少女は避けきれない。
「くっ!」
ディーヴァがジャンプすると、空中で倒れてくる柱を斬って少女を助けた。
「少女よ。何故私をかばう?それに私は・・・、神族だ。なのに」
「何が神族よ!生きている者は全て尊いのよ!死なない、死ぬことはない、ってわかっていても、痛いのは生きてるからよ!」
少女の叫びである。
「痛い・・・、か。私は闇だ。私に光を求めても――」
「光なんていらない!闇でもいい!私がほしいのは・・・、愛なの。絆なの。それさえあれば、何でもできるわ!」
女神は火が燃え盛る町を見つめていただけだった。
「ありがとう。少女。いや、妹よ。私は私を嫌悪していた。これでいいのかと。しかしこれでわかった。お前が教えてくれた」
少女は訊いた。
「破壊は象徴なの?これは現実なの?」
女神ははっきりと言った。
「そうだ」

少女の目に涙が溢れた。そして、女神の元へ走り出し、胸に飛びついた。
「お願い・・・、夢って言って・・・」
女神はそっと少女の背中を左手でさするようになでた。
「残念ながら現実だ。お前を数日間眠らせたのも私がしたことだ。しかし、眠っていても辛かっただろう」
泣いている少女の背中をなでながら、少女の頭部に視線を移した。
「あたし・・・、『全て滅びてしまえばいい』って言ったよね・・・?その中に、私も入ってるの・・・。最後のお願い・・・、私を眠らせるように・・・殺して・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・すまなかった」
「え・・・?」
「すまなかった。10にも満たない少女に苦しい思いをさせてしまった。私は滅びの象徴がゆえに、私はこうしなければならなかった。お前がいなければ、私もいなかった。・・・しかし、私はいなかったほうがよかったかもな」
「そんなことない!確かに・・・、私の悪い願いからディーヴァは生まれた・・・。でも、いなかったほうがよかったなんて間違ってる!いないほうがいい。生まれてこないほうがいい・・・、それならあたしだって生まれてないわ!」
「・・・ありがとう。お前と私が出会って数日しか経ってない。しかしお前は私の母であり、私の唯一の妹だ」
闇の女神が言った想い。例え闇でも全てが暗く、悪いわけじゃない。
「お姉ちゃん・・・」
闇だって、光じゃ説明できない友情、そして絆がある。
限りなく短い時であっても、絆はディーヴァが生まれると同時に生まれたものだから――。
ディーヴァは左手から短剣を持った。そして、少女の背中につきつけた。少女は気づいていない。しかし突くことができない。
情けを受けてはならない。私は殺すために生まれてきた。このままでは少女のためにもならぬ。
ディーヴァは自分の湧いてくる感情を抑えて、ついに短剣は少女の背中を貫いた。
「!?」
どすっ、という鈍い音がした直後に少女はまるで地面に吸い込まれていくかのように崩れていった。
うつ伏せに倒れた少女から鮮血がにじんだ。
「・・・これから私は生きる目的を探していくことにした。少女。私の母であり、私の妹だ。永遠にな――」
闇より生まれた絆は、たった一粒の涙が全てを語った。


「ちょっと!ちょっと!大丈夫?!」
闇の女神ははっとした。リトがいつも寝泊りしているイリスの家の部屋の風景が見えた。
「ちょっとー。どうしたのよ?私達が仲間はずれにしたから泣いてるの?」
ティララの声だ。気が付くと、涙がひとりでに溢れていた。
「いや、その、目にほこりが入ってな・・・」
「ディーヴァへんなのー」
ファルが言った。
「ただいま」
「あ、リト!お帰りなさい」
ディーヴァは慌てて涙を拭いた。
「遅かったな」
ティララはディーヴァの顔を見て意地悪な笑顔を見せると
「ねぇねぇ、リト聞いてー。話の仲間はずれにしたからって、ディーヴァったら」
「これ以上話すな!しかも私は泣いていない!」
「あら。私『泣いた』なんていってないわよ」
「こっ、このっ!」
剣を振り回してしまった。
「ちょっとー!やめてよー!それシャドウファングじゃないのー。戦闘してないのに混乱状態は勘弁してー!」
「あはははははは・・・!」
ファルもリトもひたすら笑うだけで、止めなかった。

あとがき

前押しが多いなあ。特にキャラクターの名前が適当だ・・・。主人公は名も無き少女です。
これはネフェシエルの書物に「姉貴(!?)だけどうやって生まれたか書いてないな・・・」と考えていたところ「クゥるボール」のディーヴァ君を見て思いつきました。「ネフェシエルのよりかなり幼く見えるなぁ」と。
歴史書見ても誕生時期が書いていなかったので、かなりいい加減です。
※これらは全てLibrrow Aquarideの考えであり、根本的な事実ではございません。オリジナル100%でできています。ご注意ください。
キャラクター名についてですが「マーフェ」という魔法と「チェリナ」という魔法を参考にさせていただきました。
作成時はディーヴァ君自体を少女にしちゃおうかな、と思いましたが彼女は元人間でなく神族なのでやめました。
これも結構暗い話です。暗い話が得意(何)なので・・・。ありがとうございました。