砂地を打つ蹄の音が消え、代わりに波風の音と鼻に付く潮の香りを感じた。
檻が開き、何者かに手を引かれ、男を砂利の前に突き出した。
目隠しが外され、目の前に澄んだ青空と穏やかな海、そして浜辺に多くの兵士の姿があった。
「前へ進め。」
護送役に引かれ、多くの人達と共に、男は前に進み出た。此処に来るまでに、何時間掛かっただろう。足が痛い。この場所で何が行われているのか、男は知っていた。殆どの人間も知っているだろう――なかには此処に来た事すら分からない者も居るだろうが。
執行人の前に立つと、手を後ろに回したままこちらを見回した。軍人だ。恐らく、かなりの高官だろう。
「よし、行け。」
執行人がいかにも軍人らしい口調でそういったあと、そのまま船の中に引きずられて行った。
船倉には多くの受刑者と兵士でごったがえしていた。この船で流刑地へ送られるのだ。甲板から流れ込む風が心地よかったが、汗と酒と潮のにおいが混ざり、よく分からない悪臭が漂っていた。隣からは麻薬の臭いすらした。
「お前、そろそろ時間だ。ついて来い。」
兵士が男に声をかけ、船倉の更に奥へと進んでいった。
船倉の端に小さな手漕ぎ船が並んでいた。その先には海に浮かぶ小さな島。
「船に乗れ、早くしろ。」
男が急かされて船に乗り込むと、小船は島へ向かって進みだした。
流刑者が軍人である場合、口封じを兼ねてその島へ送られる場合が多くある。その島から生きて出た者はまだいない。その島に入れば一切の記憶を失い、二度と還ることはできない。
人はその島を『閉ざされた島』と呼ぶ