felice

著者:神無月カイ

  おしながき

・成分:カーミラ100%・・・・と言えれば良かったんですけどね(ェ
・タイトルの意味はイタリア語で『幸せ』を指します。
・たぶん、皆さんの作品と比べて遜色の無い仕上がりにしたつもりです。
・読んで「良かったな」と思っていただけると幸いです。

・『スズラン毒』とか言う人は嫌いです。でも、冬にもアイスを食べてくれる人は好きです(ェ

 ・・・・時々、ふと立ち止まってしまう時がある。


 見上げる空は何処か遠く
 瞳に映るものは虚ろ
 今、自分がここに居ることに意味を見出せず
 ただ、そこに居る
 ・・・・ただ、それだけ
 私の時間は止まったまま

 もう、どれくらい待っただろう?

 あと、どれくらい待つのだろう?

 ――――――まだ、私の時間は止まったまま


 これは私の小さな願い
 高貴な服なんてその中には一切も入っておらず
 そして、煌びやかな装飾も曇った硝子玉でしかない

 ただ貴方とささやかに一緒な時を思い出の中に刻むこと

 朝には、日が昇ると共に貴方の寝起きを見ながらはにかんで挨拶を交わし
 昼には、一緒に小さな雑貨店を開き、常連のお客様と値切りの交渉をしながら笑いあって
 夜には、星の下で寝転がりながら、数え切れないほどの光を数え
 そして、お休みの日には草原に出かけ、ランチボックスを広げる

 そんな私の小さな願い

 ――――――今ではもう。叶える事など出来ない私の小さな願い――――――




「んー!! 今日も良い天気だわ!!!」
 名も無き島の西側・・・唯一の町がある東側を地下水道で挟んで位置する女性が過ごす家。というか店。
 人々からは『変なもので色々と交換してくれる怪しい店』と言われてはいるが、決して店の中の雰囲気が暗くてドロドロしているワケでもない。
 それに、その品は文句の付けるべき点が無く、西側に来れる冒険者達にとっては概ね良好な店屋とも言えた。
 その店を運営するのは、カーミラ。その真名は闇の魔神チェルノボク。
 ・・・ただし、燦々と光を照らす太陽の下で干物を作ったり洗濯物を干したりする姿を見る限りでは、そうは見えないのだが・・・。
「ぃよっし!! 干し物はこれで全部かな。後は・・・」
 お店の方を見る。
 そう。幾ら客が来ないとは言え、カウンターには立たなければいけない。
 カーミラならば、別に廃鉱へ魔法石を採取しに行っている途中でも、お店に誰かが入ってくれば、すぐにでも戻り、現れることは出来る。
(それでも・・・・)
 彼女は、そうしない。
 だって、彼女はカウンターに立たなければいけないから・・・・なぜなら、ここは『お店』なのだから・・・
「・・・ぁ」
 呆けること数分。
 首を振ってため息を吐く。
「あーあ。もう、最近多いなぁ」
 そして、一人ごとを呟き、店の方に戻る。
 『多い』というのは、色々といえるだろう。
 呆ける回数。ため息を付く回数。独り言を呟く回数・・・どれにしても、共通して言えることは、『自分らしくない』ということであった。
「・・・?」
 店の入り口まで歩き、カーミラは気付いた。
 その気配に、ふと顔を上げるとそこには一人の女の子が立っている事を。
「・・・・・」
 何のことは無い。ただの女の子である。
 白いワンピースを着た、金髪を結って肩から前に出している。
 気になることといえば表情に乏しい事だが、顔は童顔で綺麗というよりは可愛らしいタイプである。
 だから、この場所でその姿が際立っているのだけれど、それでも「何のことは無く」そこに立っていた。
 そして、その女の子は無言でカーミラに近づき、一輪の花を差し出す。
「え? え?」
 差し出され、カーミラは女の子から思わず花を受け取り、困惑する。
 その間に、女の子は地下水道側へと走り去ってしまった。
 そうした一連の後に、ハッとなって気付く。
「!!!」
 女の子の走り去ったほうへ振り向くも、そこには誰も居ず。
 ただ。呆然とその先を見つめ
 ・・・そして、手元に残った一輪の花を見つめた。



「なーんでこんなトコに女の子一人で来れんのよ・・・」
 貰った花を瓶に生けて、カウンターに座りながらカーミラは一人呟く。
 そう、言ってしまえばこのような所に『女の子』が居るはず無いのだ。
 なぜなら、名も無き島の西方に、『街なんて無いのだから』。
 来たとするならば、東の街から来る以外にありえないのだ。
 ・・・飛びムカデやクラゲの中を無事に通って? 冒険者でもあるまいし、それも有り得ない。
 まあ、魔神であれば例外では有るが、少なくとも、女の子には魔神の気配は無かったと言える。これはチェルノボクとしての勘を信じて違いは無いだろう。
「それに、結局何がしたい訳よ・・・ただの花一つ渡されてもさ」
 口調は愚痴っては居るが、本人は至ってその花の世話に執心であり、しきりに目をやっていた。
 ・・・と、言うよりも、こちら側には客らしい客は来ないのだ。
 東の方で店を開いているイリスは冒険者達の必需品を売って大繁盛ではあるのだが。
 だけど、それを羨ましがったりしたことは一度も無い。
 だって、それは『願い』とは『違う形』だから。
「この花、花びらがベルみたいな形してるのね」
 指で軽く突き、揺らす。
 もちろん、鈴のような音が鳴るわけではない。
 ただ、花弁は押されるままに揺れ、たゆんと元の位置へ戻る。
「あいけね! 薬調合しとかないと」
 しばらくカウンターで過ごしてから、カーミラは思い出して立ち上がり、いそいそと癒油の調合に掛かる。
 花は何も言わず、何も語らない。その意味もその名前も、知らなければ何の意味も無い。
 ただ、気を紛らわすかのようにそこにあるだけだった。




 これは私の儚い祈り

 きっと、無事に帰ってきてください
 ずっと、あなたを待っています

 これは私の儚い願い

 待って、行かないで
 傍に、居て欲しい

 言葉などは聞く筈も無く、ただ遠くを見つめていた
 己が志を見据えて、真っ直ぐに

 だから、これは私の儚い祈り

 きっと、無事に帰ってくるように
 きっと、生きていますように、と――――――


「あれは・・・・」
 魔法石を取りに廃鉱から戻ってくると、またしても店の前に女の子が立っていた。
 そして、カーミラが女の子に近づくと、昨日と同じく同じ花を手渡される。
「ねぇ。これは何なの? アンタは何を伝えたいわけ?」
 花を受け取り、女の子がすれ違う瞬間にカーミラは言った。
 その言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、女の子はカーミラに背を向けて、
 振り返りざまに穏やかににこりと笑い、たたたっと走り去ってその姿を消した。
「なんなの・・・一体」


 花瓶には、二つ目の同じ花。
 肩を並べて花瓶に咲いている。
「意味不明すぎるわ・・・」
 カーミラは、女の子の謎な行動に不気味さを感じていた。
 魔物ならば、容赦なく殲滅できる。
 しかし、あの女の子には魔物の気配など微塵も感じないのだ。
 だから、むやみに殺すようなマネはしたくなかった。
 ・・・だけど
「こんな時はどうすりゃいいのよー!!!!」
 一人上を向いて叫ぶ。
 そう。こんな時に相談できる相手もいない。
 残酷だ。・・・残酷だと、言えるだろう。


『キミは、その花が好きなのかい?』
『ええ・・・マスターは、どうなんですか?』
『参ったな。この場には無いのだけれど私はスズランという花が好きなんだよ』
『スズ、ラン・・・?』
『そう。もっと高原に咲く花なんだ。そうだね・・・今度、刻が満ちるときにでも見せてあげようじゃないか』
『はい。約束ですね』

 これは私の遠い約束

『どうしても、行くの・・・?』
『ああ。力だけの王政に栄えある未来など見えない。だから、同盟達と共に潰しに行かねばならない』
『行けば死んでしまうかもしれないのよ!!?』
『・・・私は死なない』
『・・・』
『キミが生きている限り、私は共に生き続ける』
『・・・約束、出来ますか?』
『ああ。絶対に約束するさ』

 これは私の遠い記憶――――――



「前からなんなの!!? 何も言わずに消えて!! アンタは、何が言いたいわけ!!?」
 女の子が現れてから三日目。三本目の花を渡され、カーミラはついに憤慨する。
 何よりも、この意味不明さが気に食わないのだ。
 だけど、今日は少し違っていた。
 前々から黙っていた女の子は、ゆっくりと口を開いたのだ。
「わたしは しなない きみが いきているかぎり わたしは ともにいきつづける」
「は・・・?」
 それは、おおよそ生態が放つ言葉とは程遠い、淡々とした言葉だった。
 だけど、確かに放たれたその言葉は・・・・。
 その疑問に呆けたカーミラに、女の子はやはりにっこりと穏やかに笑い
「これでさいご。わたしは、いいたいこと、すでに、ぜんぶ、つたえた」
 そう告げて、すっと空気に溶けるように消えていった。
 その先を見つめ、カーミラは遠くを見つめ、ただ立ち尽くす。
「あら・・・? カーミラ!? カーミラじゃない!!?」
「え・・・て、ティララ!!??」
 ふと声を掛けられ振り返ると、そこには千年来の好敵手が立っていた。
 と、言うことは・・・・その後ろには一人の男が。
 たぶん、彼女のマスター。でないと、ティララがここに居れるハズが無い。
 今は敵という立場でもないため、久し振りに挨拶を交わし、言葉を交わす。
 ・・・ふと、ティララがカーミラの手元の花に気付いた。
「それ、スズランよね? 花言葉は・・・幸福が戻ってくる。って。縁起がいいじゃない!!」
「え・・・スズ、ラン・・・・・?」



『キミは、その花が好きなのかい?』
『ええ・・・マスターは、どうなんですか?』
『参ったな。この場には無いのだけれど私はスズランという花が好きなんだよ』
『スズ、ラン・・・?』
『そう。もっと高原に咲く花なんだ。そうだね・・・今度、刻が満ちるときにでも見せてあげようじゃないか』



 ――――――祈りは、成就された。約束も、果たされた――――――
 彼女が死なない限り、『肉体』という器は無くとも、その『存在』は、生き続ける。



「!!!」
 駆け出す。
 ただ、無我夢中に走り出した。
「ちょっ・・・カーミラ!!!!???」
 後ろからティララが声を掛けるも、それに気付かないほどに走った。
 意味なんて無い。
 そう、そんなことは判りきっていたことだった。
 ・・・それでも、導かれるまま走った。
「あ・・・!!」
 そう。
 マスターの事を知るために、消えた女の子を追いかけたつもりだった。
 居場所も判らない、ただ無我夢中に走っただけだった。
 そうしてたどり着いたところは、高原のスズラン。


『そう。もっと高原に咲く花なんだ。そうだね・・・今度、刻が満ちるときにでも見せてあげようじゃないか』
『はい。約束ですね』


「なによ・・・なんなのよ!!! こんな回りくどいことして!!!」
 生きているかも判らない。
 死んでいるかも判らない。
 魔神で有るが故に大抵のことは不安には感じない・・・・だが、
 自分ではなく、『人』の相手であるが故に、その心配は幾千の刻の間、常に隣にあった。
 それが、全てスベテ溢れるように涙となって流れ落ちる。
「いるんなら・・・生きてんなら、こんなことするくらいなら、自分から言いに来なよぉっ!!!!!!!!」
 聞こえているかもしれない。
 聞こえていないかもしれない。
 それでも、カーミラは言わずにはいられなかった。叫ばずには居られなかった。
 膝を付き、スズランを握り締める。
「・・・幸福が、戻ってくる。か」
 ふと、後ろから男の声が聞こえた。
 振り返れば、ティララと一緒に居た。彼女のマスター・・・
「聞こえは良いけど・・・つまりそれは、全てから解放されたって事だろうね」
「・・・!!」
 その言葉の意味に、カーミラは男を睨み付ける。
 『あの』ティララのマスターである男の言葉は、何気なく放った一言とは思いがたい。
 その意味を持つとすれば・・・・そう。つまり自分にはもはやマスターが居ないという意味・・・。
 何も知らない男が、幾千の刻をたった一言で足蹴にすること。
 それが、たまらなく腹に来た。
「で、どうするんだい? ・・・いや。アンタはどうしたいんだい? オレ、記憶が無いからよく言えないケドさ、この花の贈り主が居たんだったら、その人はそのことを願ったんだと思うんだ」
 それを知ってか知らずか、男は頬を掻きながらカーミラへと問いかけた。
「・・・・」
 幸福が戻ってくる。
 もう、彼女を縛り続けるものはない。
 同時に、幾千の待ち焦がれ続けた意味も消える。
 ・・・だけど。道は出来ていた。考えるまでも無く、それしかなかった。
 ただ、それが『願いの意思』であるか『自らの意思』であるかの違い
「・・・そうね。ゴメンナサイね、みっともないトコ見せて」
「いや・・・オレ、忘れっぽいみたいだからさ。たぶんもう覚えてないよ」
 あはは。と照れたように笑う彼を見て、彼女は、この人がマスターである彼女のことを羨んだ。
 だけど、それ以上のことは無い。
 涙を隠すように腕でぐいっと拭って、一つ伸びをする。
「んじゃ、アタシは一足先に戻ってるわ。アンタ達も利用しに来たんっしょ? 生半可な所持物じゃあ何にも買えないわよ?」
 振り返ったときには、既に笑顔でからかう様な笑みを浮かべながら男の顔前に人差し指を付きたてた
「はは・・・善処してくるよ」
 その変わり身に男は呆れ笑い、共にその場を離れていく。
 ・・・たぶん、ここにはもう来ることは無いだろう。
 そう思い、目を閉じて、最後に一腺の涙を流しながら・・・彼女は、今やっと、自分の道を歩き始めた。


 ・・・

 ・・

 ・


「はいはいはい。世界が解放されたからって魔物が消えちゃったワケでも無いんよ? みんなは外の世界を見に行かなきゃさ!!」
 あれから数ヶ月。
 傷だらけのティララ達が三人で戻ってきて、そして彼女達も魔人持ち前の体力で完全復帰している。
 リトは・・・デルミゴウスとの戦いの果てに、行方が判らなくなったという。
 だけど、三人は何処かで生きて居るのだと、俯いた顔をしてはいなかった。
 なぜなら、今はそれどころではないんだから。
 そう、次なる挑戦・・・未だ判らぬ閉ざされた島の果て。
 だけど、『解放』されたことにより、希望が満ち、島の外へ本格的に目指す計画が持ち上げられていた。
「ところで、カーミラさん。本当にこの島に残るんですか?」
「・・・ええ」
 イリスの言葉に、カーミラは一つうなずいた。

『私は死なない。キミが生きているかぎり私は共に生き続ける』

「だって、決めたんだもん」
 彼女は魔神。無限の命を持つ者
 そう・・・だからこそ、決めたのだ。
 永遠に生かし続けてやろうと。
 その存在があった事を、絶対に忘れてやるもんか。と――――――

「カーミラ交換所は、いつまでも運営してるわよっ!!!」

 聞こえているかもしれない。
 聞こえていないかもしれない。

 だが、カーミラは果てしない青空を見上げ、一つ大きな声で叫んだ。




 これは私の果たされた願い
 これは私の成就された約束

 これからも、あなたと共に――――――ずっと

  かたがき

 かつて、『作品以上の長さであとがきを書く男』。と呼ばれていた(無い無い)神無月カイです
 こちらには黒夢以来の投稿をさせていただきます。

 つか、現カミ姐は良いとして、昔カミ姐が随分と性格違うんですけど・・・・汗(※)

 ※:カーミラ自伝を見る限りでは今も昔も性格は変わってないご様子

 しかも、微妙に時間軸が判りにくかったり(※まだリトが来てない)、オリジナル要素が強めだったりで、これってドウヨ?
 とか思いつつも、カーミラさんだからいっかと送信するオレが居る。
 カーミラさんだから・・・・カーミラさんだから(ォィ)

 というか、あたいの考えでは『閉ざされた島』がネフェワールドで、
 閉ざされた島から脱した(或いは閉ざされた島を残しつつ外の世界を作った?)のが攻略後だと思うのですよ。
 で、島の外がエンディングでティララ達が人間の生活をしていた姿。
 つまり、閉ざされた島とエンディングの場所は、『別場所』というより『別世界』と考えてるわけです。
 ・・・今更ですか・・・?(ォィ)

 そんなこんなで、最後まで読んでいただきありがとうございました。
 取れて三位かな・・・いや、四位か・・五位・・六位、七位、八位、九位・・・(←超弱気)

 ん? 例のあとがき?
 そんなの無いですよ?(にこり)