コレクション?

著者:ヴィシル

「いつも思うんだけど……」
島の西側に位置する交換所と呼ばれる施設。
そこを訪れた冒険者リトが何とはなしに呟く。
「どうしてこんな貴重なアイテムと不用品を交換してくれるんだ?」
先ほどもちらと述べたがここは交換所と呼ばれている。
いらないアイテム複数とここに置かれた貴重なアイテムを交換してくれるのだ。
例を挙げるとするならコウモリの翼と火炎玉、牙5つと片手剣、など。
「え? なんか不都合?」
ここの店主であるカーミラが顔を出す。
さっきまでは奥で作業をしていたようだ。
「いや、不都合って事もないけど良いのかなあって」
貴重なアイテムばかりにも関わらず一部のアイテムはかなりの在庫がある。
その出所も気になるのだが、それよりも気になるのが交換したアイテムの行く末であ
る。



「というわけでこれからカーミラの交換所の秘密を議論していきたいと思う」
リトが三人の魔神の少女の方を向く。
……ファル以外は完全に呆れていた。
顔には「探索にも行かず、何の会議をするのかと思えば……」的な表情を浮かべてい
た。
一方、ファルは彼女自身もその謎が気になっていたのかかなり乗り気な表情である。

ちなみにイリスは薬草取りに行っている。
「っていうか、探索にも行かずになんでそんなアホな会議をするのよ!?」
ついにティララが顔に書かれていたことそのままに発言。
「まあほら、探索にばかり行ってても疲れるし……」
「それならば相応の過ごし方というものがあるだろう。少なくともこんなくだらない
話題に費やす時間は――」
「はいはーいっ」
ディーヴァが言い終わらぬうち、ファルが挙手する。
「よし、ファル」
学校の先生よろしくファルを指名するリト。
傍らにいたディーヴァは頭痛を覚えたのか頭を抱えている。
「えっとね、あのアイテムたちはご飯にして食べてるんだと思うのっ」
「ふむ……、確かにひれとか刺身、コウモリの翼なんかはそうかもしれないが……牙
とか灰は?」
「え、えっと……」
自分の説の矛盾に気づいたのかファルは言い淀む。
そして、しばらく考えた後、
「カ、カーミラさんなんだから牙も灰も目玉を食べててもおかしくないのっ」
……彼女の中でカーミラという女性像はどのようになっているのだろうか?
「俺は上手く想像できないんだが、カーミラはどうやってそんなものを食べてるん
だ?」
「え?………」
言われて、瞳を宙に向けるファル。
「ふ、ふいいい〜」
そして僅かに震えだす。
どうやら、先の言葉は苦し紛れに思いつくままに言っただけのようだ。
恐らくたった今、目玉をさも美味しそうに口に含むカーミラを想像したのだろう。
「とりあえず、カーミラにはしっかり伝えておくからね、ファル♪」
ニッコリとティララ。
当たり前だがそんな事を本人に伝えられたらどうなるか分からない。
「うわーん!」
たちまち泣き出してしまうファル。
「まあまあファル。落ち着けって」
それをあやすように頭を優しく撫でてやるリト。
ファルもそれに安心したように表情を崩す……が、
ドグシッ
「ッ!?」
テーブルの中、リトの脛に衝撃が走る。
そう、誰かに脛を蹴られたかのような感覚だ。
リトはみんなを見回してみるが全員素知らぬ顔だ。
「(む〜、ちょっとファルをからかうだけのつもりが逆効果になるなんて……)」
いや、約一名妙なオーラを発している人物はいる。
が、その雰囲気があまりにも恐ろしいのでリトは見て見ぬ振りをする事にした。
それを臆病、ヘタレと呼ぶのは聊か軽率だろう。
彼女の殺気ともいうべきオーラはただ事ではないのだから。
「まあ、正味な話……」
そんな中、ディーヴァが口を開く。
「あいつは呪術に長けている。或いはその呪物、媒介なのかもしれん」
「つまり、呪いの研究に使う材料を交換所という商売で集めていると?」
「そういう事だ」
確かに目玉なんかはいかにも呪物として使えそうな気がする。
「ひれや刺身なんかはファルが言ったとおり食用でしょうね」
「目的が一つとは限らないしな。多分そうだろう」
議題は思いのほかあっさりと解決した。



「カーミラ」
「おっいらっしゃ〜い。また来たね〜」
その翌日、リト達は探索ついでに交換所を訪れた。
「何か目ぼしい物は……と」
早速、四人で商品を物色しだす。
程なくしてリトはそれを見つけた。
「へー、この剣使いやすそうだな」
「シャドウファングだね。攻撃した対象の視界を奪う力を持ってるよ」
「交換材料は?」
漆黒の刀身を光に反射させつつリトは訊ねる。
「首狩り鎌5つ」
「はっ!?」
……いつもなら単純に「持っていないからまた今度にするか」という感じになるだろ
う。
しかし、昨日の会議の結果を鑑みるなら恐らくこれらのアイテムは呪物か食用。
「……鎌って呪いに使えるのか?」
「あははっどうだろうねー、アタシは使った事ないけど」
呪いの媒介ではないようだ。となると……、
「……鎌って食えるのか?」
「食べれると思う?」
「いや、カーミラなら食べかn――」
目の前の黒き魔神はこめかみをヒクつかせながら微笑んでいる。
偽りの笑みがここまで恐ろしいものだとリトは学んだ。
「なんでもないです」
重ねて言うが、彼をヘタレだと取るのは聊か軽率だ。
……多分。
「というか鎌なんて何処で手に入れればいいのかすら分からないんだけど……」
「それじゃあ、今回は諦めるんだねー」
道理だ。
現にリトもこれまで交換材料を持っていないアイテムは諦めてきた。
が、今回は何故か食い下がってみたくなった。
「まけられない? 他のアイテムとかで」
「そうだねー、古城の方に古い絵が掛けられてるのは知ってる?」
「いや、見た事ないけど……」
「宝物庫に向かう階段の手前にラミアがいる回廊があるでしょ? そこのある壁に掛
けられているらしいんだけど」
頭の中で場所を思い描いてみる。
が、あの場所はかなり広く複雑だ。
古城は何度か探索したが、絵を見つけられていなくとも無理らしからぬ事だろう。
「まあ、それを探すとなればどうにかなるか」
リトはこの話に乗る事にした。
「しかし、その絵は何か歴史的価値のある物なのか?」
ディーヴァが少し怪訝そうな顔をして訊ねる。
確かに価値の高いものでない限り、わざわざモンスターの巣窟となっている古城に乗
り込むべきではない。
取り分けあそこは今までに多くの冒険者達を冥府に還してきたのだ。
「いや、まあそういうのじゃないんだけど……」
「? まあいいや。行くか」
珍しく言い淀んだカーミラに違和感を覚えたが、リトは特に気にせず交換所を後にす
る。


「というか、一本の剣のためにここまで頑張る必要はないんじゃない?」
古城の中でぼやくティララ。
「確かにな。リトが一つの物にここまで固執するのは珍しい」
「いや、あの剣がっていうか……」
言葉は途中で止まる。
リト自身も何故この話に乗ったのかは分からない。
別にあの剣がどうしても欲しかったわけでもない。
「リト?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「そうじゃなくて、あそこにいるのって……」
ティララに促されて前方に目をやる。
最初に見えたのは蒼白の裸身。
そして次に闇から顔を見せたのは蛇の体躯のような下半身。
この回廊に住まう魔物、ラミアである。
「まっ全く出くわさず通り抜けられる方があり得ないか」
ともあれ腰の鞘から剣を抜く。
皆もそれに倣う。
魔神は一人の主に複数召喚されていると力を使えなくなるが、普通の行動はとれる。

ラミア程度の相手なら数で攻める方が有効だろう。
鋭い爪を備えた腕を弾き、尾による薙ぎ払いを避け急所を貫く。
敵、その攻撃、自らの得物は違えどこれまで幾度となく繰り返してきた動作だ。
この程度の相手に乱れるはずもない。
「やっ」
最後に逃げ回っていたファルがいきなり方向転換し、その返り様に振り抜いた剣がラ
ミアを引き裂く。
「リトー、やっつけたよ〜」
「ああ、頑張ったな。ファル」
ご褒美とばかりにファルの頭を撫でてやるリト。
「みい〜〜」
ピシッ
瞬間、空気が凍ったような気がした。
凍えるほど冷たい殺気がリトに向けられている。
”ファルを撫でるのをやめろ”
そのオーラはリトにそう言っているように思えた。
訳が分からないままにリトはファルの頭から手を退かす。
「というかティララ、あんまり怒ると皺が増えるぞ」
「うっうるさいわね! それに別に怒ってないわよ!」
「そうか? 邪神のような形相で凄まじい殺気を放っていたように見えたのだが」
ディーヴァがティララをからかうという珍しい光景だがリトにはそんな事を気にして
いる余裕はない。
モンスターを退かせたばかりだというのにそれを遥かに凌駕する殺気に中てられ、一
杯一杯だ。
しつこいようだが彼をヘタレと呼ぶのはあまりに軽率だ。
……というか、彼の名誉のためにもどうか呼ばないで欲しい。


「とかやっているうちに着いたな」
回廊の少し南に行ったところ。
そこに幾本かの柱があり、その一つに絵が掛けられていた。
「これみたいね」
ティララが慎重に額を柱から外す。
トラップの可能性もゼロではないからだ。
絵を回収し周りに警戒するが、特に何も起こらない。
「ふうーーー」
緊張が解け少しばかり脱力するリト。
仮にも魔物の巣窟なのでここで気を抜くべきではないのだが。
「ではさっさとこの絵をカーミラに届けるとするか」
「キュートな魔神の宅配便なのっ」
ディーヴァが皆より一寸早く踵を返し、ファルは謎の言葉を発する。
「俺もキュートなのか?」
まあ、見ようによってはリトもキュートと言えるかもしれないが……。
「キュートな魔神の宅配便だから問題ないのっ」
「端から俺は論外、と……。けどそれにしたってディーヴァとかもキュートとはちが
くないか?」
確かにティララやディーヴァは所謂カワイイ系ではなくキレイ系である。
「じゃあクールな魔神の宅配便なのっ」
「……ファル、自分の胸に手を当てて今の提案を考えてみろ」
「ふい?」
言うまでもなくファルはクールとは言いがたいものがある。
少なくとも普段はやたらとはしゃいでいるタイプだ。
「えっと、じゃあヤングな魔神の宅配便なのっ」
「いや、それも約一名無理、があっ!?」
突然リトの頭上に隕石。
「へえ〜、約一名はヤングじゃない、と。その人の名前、教えてもらえないかし
ら?」
笑顔で訊ねるティララ。
だが殺気はそれだけで人を殺せそうな勢いだ。
「さて、いい加減カーミラにこの絵を届けるとするか」
我関せずな態度で一人先へと進むディーヴァ。
曰く「主の蛮勇に付き合って命を落とすのはゴメンだ」


「これだよ、これ! いやー、ありがとね♪」
「……………」
交換所に着いたリトたち一行は早速カーミラに戦利品を渡す。
ちなみにリトの顔はボコボコに膨れ上がっている。
「さて、それじゃあ約束の品だね。はい、シャドウファング」
カウンターに漆黒の剣を置くとそのまま屈む。
どうやらカウンター下の在庫を漁っているようだ。
「ついでに火炎玉、ついでに癒油、ついでに……」
何やら色々おまけがついてきている。
「顔、大丈夫?」
「……この傷に対する心配は火炎玉や癒油と同程度……と?」
さも「今思い出しました」的な言い草に少しばかり不機嫌になるリト。
「またティララ辺りに要らん事言ったんでしょ?」
バッチリ当てられてしまう。
当の彼女が不機嫌にそっぽを向いているのだから得心はいくが。
「まあ何はともあれご苦労様。また何かあったらよろしくね♪」
「そういや、その絵って結局なんだったんだ?」
「う〜ん、内緒……かな」
少し照れ臭そうな笑みを浮かべるカーミラ。
「そう言われると気になるんだが……」
「詮索すべきではないのだろう。用も済んだしそろそろ帰るとしよう」
ディーヴァに急かされる。
確かにそろそろ帰らないと夕飯に間に合わない。
「それもそうだな。じゃあな、カーミラ!」
「はいはーい。また来てね〜♪」
ゲートの中へと消えていった一行を見送るカーミラ。
彼らが去った後、受け取った絵を見る。
「実際、なんなんだろうねえ……」
そしてポツリと一言。
自分でもこの絵をはじめ、基本的に役に立たないものを集める理由は良く分からな
い。
ただ、もしかしたら……。
自分ももとは同じだったからかもしれない。
かつて王が魔神を集めていた頃、一人の男が知恵を働かせ軍を退散させた。
そのとき一つだけ残った壺にカーミラは宿った。
使われる事のなかったたった一つの壺に。
共感か或いは期待か。
この誰からも必要とされない道具たちを引き取りたくなったのがこの店を開いた一因
だった。
「さてと、今日はそろそろ閉めますか♪」

☆あとがき☆
というわけで初カーミラさんのお話でした。
え? 他の三人の魔神の方が目立ってた?
そんなわけないじゃないですか、やだなーもうー。
なんとなくギャグ調になった気がしないでもないですが、本人はほのぼのと言い張っ
ておきます。
ネタ自体、半分思いつきで本編の話を鑑みたら矛盾とか普通にありそうですがご容赦
を^^;。
では最後に小説投稿コンテストを開いてくださったダイスさん、
そしてこのような駄目ライターの作品を読んでくださった皆様、ありがとうございま した〜


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