ひとのものがたり 〜燕説話

著者:小燕風

†X・カーミラの章†


【 闇夜の誓 編 】

 光と共に生まれ
 光と共に生きる
 光があれば闇があり
 闇があれば光があり
 けして交わらぬその瞳

人々がまだ国という境界を作り出す以前の
遠い、・・・遠い昔のお話。
創生の女神が生命を作り出し、
維持の女神がその生命を織り成し、
破壊の女神が生命の終焉を生み続ける、
そんな混沌の中から人々は生まれました。
そして次第に人々は混沌から秩序を求め始め、
ついには光の女神が光臨することになりました。
そのとき私はまだ生まれていません。
マスターから後々で聞いたお話なんだけどね。

私が生まれたのは既に創生維持破壊の三神がいなくなって、
光の女神が神殿に鎮座して、幾年か過ぎた頃のこと。
このとき、人はようやく文明を生み出し、
女神を中心として文化が発達していました。
どの程度の文化だったかは幼少だった私の記憶には残ってない。
ただ、今も島に残っているあの神殿は
この時から原型はあったみたいだから結構文化レベルは高いと思うよ?

私が10ぐらいのとき、
私の住んでいた集落に夜の種族ノスフェラトゥが現れて、
人を差し出すように命じた。
彼らは吸血鬼で、
人の血を吸い取ることで生きながらえ、
処女童貞はその眷属になる。
文明や文化があったと言っても、
まだ原始的な文明だったからね、
婚姻とか、家庭とかは必ずしも必要じゃなかったし、
女は12で子供を産んでいるのが普通だった。
だから、眷属になるのは本当に小さい子たちだった。
・・・無邪気で、・・・純粋で。
彼らは吸血鬼の活動できる夜しか暗いことは知らない。

村の人々は誰を贄に出すか話し合うことにした。
贄を差し出さない限り、皆殺しになるのは目に見えていたからね。
運悪く・・・、と言って良いのか今となっては分からないけれど、
とにかく運悪く私が贄として差し出されることになった。

満月の夜、彼はやってきた。
彼の赤い瞳を見たとき、私は吸い込まれるような気持ちになったよ。
あぁ、この人の糧となるんだな・・・って。
不思議と嫌な気持ちじゃなかったし、
どうしてか死ぬ気がしなかった。
処女だと死なずに眷属になるというのは後で知った話。
目を離せなくなった私に彼はこう言った。
「ふむ、処女を贄として遣したか・・・」
しんと静まり返った夜に溶け込みそうな声だった。
私は彼の白い牙に目を移し、眺めているときに彼は続けて話した。
「これからお前は人でなくなるが・・・、
 怨むなら大人たちを怨むんだな」

吸血されているときは本当に夢心地で気持ち良かった。
なんでも、麻痺効果があるみたいで、
赤い口、白い牙で私の首筋を噛んで、
あっという間に吸われて、徐々に気を失ってしまった。

それから後のことは彼のスレイブとして動いていたからあまり記憶にない。
多分、私の故郷を私が壊し尽くしたと思う。
夜の間なら何でも出来たし、何でもやった。
ソルグラントの様々な集落を襲い、彼の為に血を集めた。
処女童貞は私のように彼の手足のように動くように命令された。
この大陸だけが混沌の再来だったかもしれないね。

さすがに、大々的にやっていたもんだから光の女神に知れ渡り、
討伐に数人の供と共に彼女はやってきた。
何人、何十人、何百何千のスレイブが居たのかは知らないけれど、
女神は確実に浄化していって、彼の軍勢を減らし始めた。
常に一緒に居たわけじゃないから結局彼がどうなったのかは知らない。
あの女神のことだから焼き尽くしたか封印したかのどちらかだとは思うけど、
スレイブで無くなったから、前者なんだろうねぇ。
突然喪失感に捉われたこともあったし。たぶんそれだろうね。

でも、それは逆にスレイブからヴァンパイアへの昇華を意味するものだから、
あのティララも手を焼いたんじゃないかな。
しもべである以上は自己決定の範囲が狭かったけれど、
しもべでなくなったら、自由に動けるからね。
かくいう私もお蔭様で自分の意思で全てを決めて生きれるようになった。

ヴァンパイアになってから数年経って、
新月のときであんまり力が出なかったんだけど、
私は血を求めてとある教会へ忍び込んだ。
「何者だっ!」
静寂な教会で大声張り上げられるのはキーンと耳に来るからあまり好きじゃない。
そんなことを考えながらも一飛びで声の主の首元へ喰らいつく。
あぁ、AB型の苦いこと・・・。
まろやかなO型の血が私は好きなんだけどねぇ。
あんまり派手に動くと女神に見つかって消されちゃうしね。
とか思いつつ血を飲み干す。
飲み終わってふと祭壇を見ると
赤青緑色取り取りの宝石に飾られた槍が奉られていたの。
これが魔槍ジオボルグとの出会い。
残念ながら、神父を食べちゃったから
私が手に入れる以前のお話は知らなかったりね。





―――そしてさらに月日は流れる。


緑溢れるソルグラント。
赤い月光。
黒い空。

「もう逃げられないわ。
 観念なさい、吸血鬼!」
そう、ずっと昔、
ずっとずっと昔に生きていた場所へ来た。
「逃げられない?
 返り討ちにしてやるよ、人の下僕!」
今は・・・。
今の私は死んでいる。
・・・あのときから心臓は止まっている。
人の血で私を生かしている。
何故、私は人を殺さなくては生きていけないのだろう。

昔、集落があったと思われる範囲で結界が張られている。
戦闘に支障はないが、逃げ道はないようだ。
いや、この結界を徐々に狭められたら戦闘すら思うようには出来ないだろう。
女神と吸血鬼の双方の間合いは同じ。
武器の性能で行けば
たかだか対不死武器であるだけのシルバーランスと
魔槍ジオボルグでは勝敗は言うまでも無い。
だが、向こうには何百年もの経験がある。
私には数十年しかない。

女神が先に動き出す。
先をとられた。
防戦一方の私。
まるで大人と子供の力の差。
あっさり槍の柄を絡め取られてジオボルグを弾かれる。
「ちぃぃっ!」
「ここまでよ!」
女神の跳躍からの振り下ろし。
辛うじてかわすものの、魔槍との距離が広がる。

槍を失って防戦どころではなくなった。
もはや全てを避けるしかない。
このまま死んでしまうのだろうか?
人の生を食べるだけ食べて、
私はたったの数十年で果てるしかないのだろうか?

・・・否

私の中の誰かが否定をする。
そう、私の中には喰らった数だけの生がある!
死ぬのは怖くは無い。
なぜなら死を与える側だったから。
死ぬときはいつでも死のう。
でも、今は殺した人の為にも私は生きる!

「・・・らぁああぁああぁぁぁっ!」
避けることしか出来なかった私の精一杯のカウンター。
目を見開く女神。
私の爪から零れる赤い雫。
女神といえど、血はあるらしい。
そう、そして私は爪の血を飲んだ。

ヴァンパイアからの転生。
「・・・悪いけど、
 これ以上は続けれないねぇ」
倒れる女神。
爪撃だから左の二の腕の皮を切った程度だろう。
けれども、それ以上続ける意味が無くなった。
私は血を得なくても死なない体となった。
女神が倒れたのは恐らく十数年に渡る吸血鬼狩りの疲労と、
傷つけられたことがない自分が傷ついたことへのショックによるもの。
これ以上居続けても無意味であると思い、私は魔槍を手に取り、
その場を去った。


いつしか人は私のことを黒き神(チェルノボグ)カーミラと呼ぶようになった。
カーミラは女吸血鬼の上位という意味らしい。
だから、私もいつごろか自分のことをカーミラと名乗るようになった。
あの日以来、光の女神の噂を聞かない。
スレイブを使って情報を集めているけれども、
あのノスフェラトゥのように巧くいかないのは経験が浅いからだろうか。
血はいらないのにスレイブたちが毎回持ってくるのも気に食わない。
処女童貞だけスレイブにしてあとは送り返している。
最も、送り返されずにスレイブのご飯になっているようだけれども。
吸血鬼を恐れるせいか、子供でももうスレイブにならない場合が多くなっている。
彼らには申し訳ないことをしているとは分かっているが、
私は死ぬわけにはいかないからこうせざるを得ない。


不死となると、時の流れは速いもので、
ある日、光の女神があの集落跡に再び現れたという情報を得た。
スレイブもだいぶやられていて数が減っている。
決着をつけるしかない。


「・・・黒き神(チェルノボグ)カーミラ、
 悪いけれど、これ以上ソルグラントに血を流さないで!」
開口一番彼女はこう言った。
しかしながら、私としても殺したくて殺しているわけじゃぁない。
「光の女神、ティララ。
 私は自分の平穏が欲しいだけ。
 そのためにスレイブを使役し、人の血を飲む。
 前のような、自分の欲の為じゃない」
スレイブを使ったお陰で、名前ぐらいは分かった。
さらに、女神信仰なはずなのに、
人はどうも女神を信仰しているわけでもないことも掴んでいる。
スレイブの記憶は吸血した時に全て私に流れ込む。
だから、私は人であった頃の記憶が曖昧だったのだ。
「私の前で血を流すこと、それ自体が罪よ!
 槍を構えなさい、カーミラ」
今となればティララらしいといえばティララらしい。
正当に相手を屈服させたがる。
降魔調伏という単語がお似合いだ。
でも、私は屈したりはしない。
私は、私だ。
私の中の血が私を生かすけど、私の中の血が私にはならない。
私も魔槍を構える。
ティララは神殺しの槍を構える。
そう、私の中にはティララもいる。

二度目は私が先を取った。
槍と槍が合わさるたびに虹色の火花が飛び散る。
2檄3檄交え、再び間合いを広くとり魔法を詠唱する。
「数多の闇よ!光を包み込み、光を消し去れ!」
「無数の光よ!闇の内より洩れ、闇を破砕せよ!」



幾度もの光と闇が撃ち出される。
相手の先を読み、さらにその先を読む。
妨害と束縛、争乱と平穏
劫火と滅びの闇
女神の血は私に魔力を与え、
夜の力はそれを闇へと変えた。

「今ここで星の魔神ティララは契約す!」
それは私がティララの妨害によって足を掬われたときだった。
間違いなく彼女はこのチャンスを逃さない。
両手を広げ、詠唱を始める。
「灰燼になるまで我が魔力高まれ!」
どうやらティララは奥の手を隠し持っていたらしい・・・。
光の女神と聞いていたがために、彼女は光魔法が得意だと思っていた。
妨害による地魔法も補助的であった。
まさか火魔法が最も得意だとは思いもしなかった。
ティララの周囲の温度が上昇し、周りの地面が熱で窪んでいく。
咄嗟に印を切って詠唱する
「四精霊よ、我が周囲に障壁を!」
「限界まで炎よ上昇せよ、エスレイオン!」


障壁を張ったお陰で死にはしなかったが、
動くこともままならない状態だった。
いや、あの温度だと灰すら残らなかったかもしれない・・・。
「・・・もう、
 ・・・好きに、・・・するが良い」
初めて戦ったときとは違い、接戦ではあったけど、
負けは負けであった。
ティララが槍を杖のようにしてついてこちらへ来る。
・・・あちらも全魔力使い果たしたようだ。
「・・・黒き神(チェルノボグ)、
 これで・・・、最後よ」
肩で息をし、持ち上げた槍も震える。
私は静かに目を閉じる。


いくら経っても槍は突き出されなかった。
横にはティララが寝転がっている。
「・・・あんたを倒すために」
今日も月が赤い。
そして月の周りには星が一つも見えない。
「十年間神殿に篭っていたんだからねっ!?」
その言葉と共に全ての音が止まる。
そして思い出したかのように私は笑い出してしまった。
「・・・ぷっ
 ・・・・・・・あはははっはははっはっは!!」
横を見ればティララの目が赤くなって涙ぐんでいる。
彼女にとってはこれが引き分けらしく、
さらに完勝できなくて悔しかったらしい。
「はははっはっは・・・っ!
 どうりで・・・!スレイブにも情報が出なかったわけだ!!」
きっと、私に会うまでは失敗はしなかったのだろう。
私に傷を付けられたショックから十年も引き篭もって!
挙句の果てには引き分け!
「あー・・・、おかしい!
 はー・・・・・・」
散々笑ってからようやく私の笑いも収まり、夜の静寂が戻る。
そして女神2人が肩を並べ、寝転がる。

「・・・ねぇ、カーミラ」
月を見上げながらティララが話しかける。
私は無言で聞く。
「魔神にならない?」
・・・魔神。
それは古の言伝えで聞いたことがある。
壺の中に居て、人の呼びかけでその願いを叶える、そういう言い伝え。
「・・・なんでまた、さ?」
ティララの真意が分からないため聞き返す。
ティララは自分の思いを吐くように手で顔を覆いながら言う。
「壺を開かれない限りは・・・、
 壺の中は永久に平穏な世界だから・・・」
「そっか・・・」
壺の中なら人の血を吸う必要もなくなる・・・。
「・・・ティララの言う通りにするよ、あたしは」
死よりはずっとかましだろう・・・。
この世にいればまた人を殺さなくてはならなくなる。
そうすればティララとまた戦わなくちゃいけない。
そしてまた泣かすわけにもいかないし。

「・・・カーミラ
 ・・・・・・ありがとう」




こうして私を封じた壺はソルグラントの地底奥深くまで埋められ、
誰からも封を解かれるはずは無かった。



X・カーミラの章
        闇夜の誓 編 前編End

あとがき、ならぬ真ん中書き

こんばんわ、小燕風です。
ダイス様、第一回小説コンテスト開催おめでとうございます〜!
次回開催も心より楽しみにしてお待ちしておりますw
他の投稿者様たちの作品早く読みたいよ〜

はてさて「ひとのものがたり〜燕説話」ですが、
Nephe考察にあった小説の正式タイトルとして使っていこうと思っております。
えぇ、Tリトの章、Uファルの章、終章の3つしか
公開してなかった(出来なかった)例のあれの続編だったりします。
第一回のテーマが「カーミラ」とのことで、Xカーミラの章を書き下ろすことにして、
1週間悩みに悩みました。
だって、色々と忘れかかっているんですよ?w
ゲームのセーブも消えているので資料採集にゲーム起動とか気楽に出来なくなってますし。
それでも大まかな骨格は出来上がって、書き始めました。
その際、NepheshelComplete様のデータは本当に役に立ちましたので、
ありがとうございますと感謝の辞を述べたいと思います。
きっと、まだまだ利用させていただきますw

今思うと、硬すぎる文章で読者の皆様に申し訳ない気分でいっぱいです。
もうちょっとシャレっ気が描けたら良いのですが、
ここしばらくは硬い文章ばっかり読んでいたので難しいですね・・・。
元々文も下手ですので雰囲気を伝えきれてないと思います・・・。
そもそも、私の中では後編が書ききれなかったショックが大きいです。

前編ではカーミラが魔神になって封印されるまでが淡々と描かれていますが、
皆様ご存知の通り、封印を解かれますよね。
そこからの話が書けないどころか契約を結ぶというのを描くのが難しいとは大誤算でした。
ここも淡々と書いても良いのですが、そんなことしたら全部が淡白すぎるw
後編ではカーミラの空間移動能力、世界の果ての探索、カーミラの店までを描く予定です。
書き進めることが出来ましたら、
なんらかの形で皆様の前にお披露目できるようにしたいと思います。

「ひとのものがたり」でのカーミラですが、
「吸血鬼」という構想はNephe考察作った頃ぐらいから既にあったりします。
大抵漠然とした構想から書いていくごとに固めていくようにして書いていくので、
いい加減だったりしますけどね。
光の魔神と闇の魔神の対立と簡単に原作では語られますが、
ティララは光と言い難いですし、カーミラも完全な闇とも言い難い。
そこでカーミラは夜(吸血鬼)の魔神、と仮説を打ち立てて
作っていった結果、こういう作品に仕上がりました。
吸血鬼の設定はかの「Hell○ing」からの影響をモロに受けてますw
血を吸うことで記憶を共有するとかいったところね。

まだまだ前編では語りつくせないところがあるので
前編で投稿するのは作者としても歯痒いのですが、
第一回コンテストのために書いた作品を第一回コンテストに投稿しなかったら、
何のために気持ちを昂ぶらせて書いたんだ!?とツッコミを脳内で受けたので、
非常に中途半端なところですが、ここいらで投稿させていただこうと思います。



最後に、素晴らしいRPGを作成されたTilスタッフの皆様、
コンテスト主催のダイス様、
ここまでお読みになってくださった皆様方へ感謝を述べたいと思います。
本当に、ありがとうございました。
また第二回でお会いできたら幸いです!


                 2006/06/30 writing by 小燕風


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