ディーヴァは、時々夜に家の外に出なければいけないというときに役に立った・・・・・らしい。
帰り道に声をかけられる可能性があるからということで、安易に夜のパブに行けなかった女性達には、最高の助っ人らしい。なるほど、魔神にはこんな使い方があるのか(違)
ディーヴァの装備と、自分らの装備を変えるために武器屋に行く。ディーヴァはいつまでもダガーでいるわけにはいかない。
「まあ、こんな装備でいいかな?」
と言って、みんなの装備を見てみる。
海岸洞穴の大いかは、斬り攻撃に弱いとパブで聞いたので、バスタードソードを片手に、カイトシールドを片手に持つ、ディーヴァは、オレの持っていたブロードソードと炎の短剣カーマイン、ファルは、武器屋が冒険者から買った、魔力が増幅する武器ジュエルロッドを持っている、これは両手持ちだ。鎧、コート系は、ディーヴァはスプリントアーマー、ファルは、ハンターコートを羽織った。オレは、なかなかいいのが無く探していると、開かない宝箱に目がとまった。
「ああ、そいつは未だにさっぱり開かねぇや」
と武器屋の主は言う。オレはふと思って、図書館で貰った紙を取り出し、その言葉を言う。
「時よ、全てを司りし時空の鎧よ、汝の新しい主は現れた」
すると、ピッと光ったかと思えば、その刹那、光が見る見るあふれ、輝きが爆発した。
全てがおさまったときに、宝箱が開いていて、その中に古びた鎧が入っていた。
全員が驚く。
「これは・・・・・」
とオレが中を見る。
「開け・・・・・」
とファルが絶句。
「ちまいやがった・・・・」
と武器屋の主が感嘆。そしてディーヴァは、
「この鎧はエタニティーズ、時空の鎧と言われているが、かつての輝きは今はないな・・・・」
そうつぶやいた。武器屋の親父は、
「オレは感動した!!その鎧をオレに叩き直させてくれ、そこのねーちゃんが言うような、かつての輝きっていうのを取り戻させてやる!!武器はお礼だ。待っていきな!!」
と言ってオレ達を見送ったあと「さ〜て、これからおもしろくなるぞ」と意気込んでいた。
イリスに、今から行くからと告げて、ゲートを通り、神殿に出る。あの隠し扉を開けて、地底回廊に出た。魔物はコボルト系の・・・・・ウルフとあまり変わらないような強さの奴ばかりだったので、楽々進むことが出来たが、ウィスプやエレメンタルはまだしも、アミーを相手に苦戦、結局は逃走した。薬草だけでなく、傷薬も使い治癒する。しばらくして見えたゲートには、コボルトのアジトであろう場所から素早いファルがひょいひょい避けてクリスタルを取ってきたものをはめる。先へ進むとここが海岸洞穴だろうか、乳白色の洞窟に出て、波の音がよく聞こえた。
噂の大いかは、結構強く、墨をはいてきて、目の前が見えにくくなるなどもした。
やがて、ゲートが見え、近くにあった宝箱の中のクリスタルをはめ込み、先へ進んだ。
その奥では、半裸の人魚が大量に侵入者を睨む。オレ達は急いで走り逃げ、追いついた奴をバスタードソードで斬って斬って斬り倒した。だいぶ奥に行くと、ゲートがあった。近くの人骨の腰あたりにクリスタルが落ちていて、この人の冥福を祈ってクリスタルをはめた。ここに来る途中に、書物『ある女神の物語』というものが地上からの光を浴びるような感じで、台座に置かれていた。
奥に進むと、ファルやディーヴァの入っていた壺と同じ様な物が置かれてあった。装飾の色は、明るい光を思わせる様な不思議な桃色、それに近づくと、背後からバシャという音がした。振り向くと半裸の人魚、しかし尋常ならぬ殺気が今までの雑魚とは違うということを物語っていた。
・・・・・海姫アンフィトルテ、手に持つ『トライデント』が蒼く妖しく輝く。
その下半身が魚のようなものとは思えない素早い動きで、ファルに突きを食らわせようとする。しかしファルは、身をかわして、そのまま後方に行く。オレの手に壺、その前方に、次はどう行くか・・・・と考えているアンフィトルテと、どこから来てもさばく!!と警戒して構えるディーヴァ、そして、後方には、詠唱をしていつでも撃つよ、というようなファル。そして戦いが始まった。
初撃を受け流し、反撃するディーヴァ、ファルは、ディーヴァにフォスを放ち、風の魔法『シアル・サー』で相手を翻弄させようと激しい戦いをする。オレはこの壺も魔神の壺だと思い、戦力を多くすると言う意味で開けると、いきなり壺の中にのみ込まれてしまった。奈落の白い闇の中、ファルの自分を呼ぶ叫び声が聞こえた気がしたが、解らなかった。
心地よい波の音がする。なぜだ、オレはあの壺のあった祭壇で戦いをしていたはずだ。
目を開けると、部屋の中だった。窓の外には海、何処まで行っても島などはないようだった。
「あっ起きた〜」
ガチャリと扉が開いて、オレと同じくらいの年の少女が近寄ってきてオレの寝ているベッドによっいしょ、と腰を下ろす。輝くような光をまとう少女だった。
「私はティララ、覚えてる?」
たぶん、いや間違いなく初対面だ。こんな女の子を見たことがあれば、何十年経ったって覚えている。あの壺の装飾の宝石のような淡いピンクの髪、整った顔に透けるような白い肌。かわいいとも綺麗ともいえる少女だ。会った事があるなら忘れるわけがない。
「そっか・・・・あれからだいぶ経つもんね・・・・」
とは言ってもオレは17歳(年齢は思い出した)だから、たぶん10年くらい前だろうと思うが、こんなかわいい子に自分を覚えて貰っていたなんて光栄だった。
「ご飯作ったけど・・・・食べる?」
と聞いてきて、オレは急いでベッドから降りた。
ティララは最初に見たような神々しさとはうって変わって話しやすい女の子だった。
食事をしながら、今までのオレのことを聞いてきたので楽しくいろいろなことを話した。
記憶がなくなっていたこと以前は解らないが、今はイリスとか街の人と暮らしていること。
冒険をして、イリスと生活していること、骨董屋の壺から不思議な女の子が出てきたこと。
神殿でマレフィカス&フレイヤと命からがらの戦いをしたこと、その神殿に壺があって、すごく頼りになる少女が出てきたこと、エタニティーズという鎧を手に入れて、今、武器屋で打って貰っているということ、今、海岸洞窟を冒険していたと言うこと。そして、
「それでさ、海姫アンフィトルテが出てきてそいつと・・・・・」
「どうしたの?」
うんうんと笑顔でうなずきながら聞いていたティララは、オレが話を切ったことで、心配そうな顔になった。
「な、なんでもない、大丈夫」
「本当に?」
なおも心配そうに聞いてくる。
・・・・そうだ、あんな強い敵をたった二人で相手しているのだ。無事なわけがない。
しかしここで、この場を立ち去ろうとすると、この少女を傷つけることになる。
ティララは、部屋でゆっくりしていけばいいから、と言って、外に出ていった。
ゆっくりと体を休める。しかしさっきから心が休まらない。
オレは、さっき寝ていたベッドに横たわり、考えていてあるときはっとした。
戻ろう、と思うと震えるのだ。戻りたくない、ここは安全だ。・・・・・と
そう、オレはただこの緊急事態に、ティララを傷つけるとか、彼女がかわいそうだと理由を付けて、甘えていただけなんだ・・・・。もちろん、このままでいいはずがない、オレには、仲間だと誓って握手をした魔神がいるのだ。魔神が主を裏切らないだけじゃない。
・・・・・・主も、魔神を、仲間を裏切ってはいけないのだ・・・・・・。
ベッドから飛び起き外に出た。ティララが、布団のシーツを取り込んでいた。
「ティララ!!頼む、元の世界に戻してくれ!!」
目の前まで駆け寄り、事情を話す。すると彼女は・・・
「やっぱりね。私もあなたがそう考えていると思った。・・・・・私も魔神だよ。考えていることなんて解る。・・・・まあ私は魔神の中でも特別体なんだけどね」
そういって舌を出してエヘッと微笑み、彼女は、元の、海岸洞穴へと戻そうと詠唱をして、そして光に包まれた。
闘いは困難を極めた。初めは相手の攻撃を読んでかわしていても、次第に、腕に、横腹に、足に、と刺さる。ファルは近づけまいとサーで牽制するが、魔法耐性が高いらしく、微動だにしない、ディーヴァはついに倒れ、アンフィトルテの標的がファルに定められた時に、光が輝き、そして引いていった。一人はオレ、そしてそこにはもう一人、輝く光をまとった少女がいた。
ティララだ。
オレは剣を構え、アンフィトルテと対峙する。ティララはまず、足に傷のあるファルの方に向かった。
「大丈夫?」
そう言ってファルの足に出来た傷を見る。擦り傷が大きく、痛々しい。
「みぃ・・・・それよりも姐さんの方を先にして!!」
姐さんとはディーヴァのこと、ファルはそう呼んでいる。
「今はあなたの傷を治すわ、待っててね」
オレは攻撃をさばきつつ斬撃を喰らわす。ディーヴァのおかげで、だいぶ相手の動きが遅くなっていた。
「天の光よ、我が手に満ちて、女神の祈りを聞き入れよ・・・・・マーフェ!!」
とティララが魔法を放つと、まばゆい光がファルの傷口を覆い、そして、ファルの傷が無くなった。
「みぃ!!すごいよ〜」
そういって杖を構える。
「ごめんなさい、ちょっとこれを貸して」
そういってファルの荷物から、フィースを取り出し構える。
「みぃ、大丈夫?使えるの?」
「お姉さんに任せなさい」
相手の隙を見て、ディーヴァを起こし、ティララに任せる。ファルが、サーを放って僅かながらも足止めに奮闘する。ディーヴァをこっちに連れてくる際に、相手に足を突かれ、先にオレにマーフェを放つ。オレはダッシュで回れ右をして相手に斬りかかった。
ディーヴァに二回マーフェを放って、フィースを持って矢をつがえた。
「リト!!右にはねて!!」
そうティララが叫び、バッと跳ぶ、そしてティララは、シュッと矢を放ち、ズバッズバッズバッと、アンフィトルテの身体に三つ矢を沈めた。
全員が疲れ切っており(特にディーヴァが手ひどくやられており、戦うことは無理だった)、ゲートまで来ると、早々に街に戻っていった。
オレが出てから一日経った昼で、すぐにディーヴァを寝かせることが出来た。
ティララは、海岸洞穴に流れ着いてきた少女ということにした。
ティララもファルに劣らずかわいく、ディーヴァに劣らず綺麗で体型も良かった。・・・ので、かつてのようにファンクラブや親衛隊が再発しかけだしたのを早い内に止めさせた。
・・・・・海岸洞穴から帰ってきていきなり疲れた。
夕刻だというのに、オレは早々にベッドに横になり眠りについた。
目の前には海岸洞穴で手にした書物があった。
夢を見た。漆黒の闇に、傷だらけの人々が、道路で眠っているのも珍しくない街の。
発掘する者がいた。何か自分の家族を、子供を養うのに、幸せにするのに、すばらしい物はないかと。そのうちに壺が一つ出てきた。その壺は、神殿の司祭が気に入り、高額で売れた。壺からは輝きを放つ金色の女神が現れた。
女神は人々の傷を癒し、崩れた家を魔力で直し、
『人々のために尽くす』、司祭の言ったことだった。
そのうち司祭は死に、神殿の次期司祭は誰にするかということで、もめ事があった。やがてそれは大きな争いとなり、血肉を見るまでに広がった。
夜中、一人の少年が神殿の祭壇に侵入していた。目的は壺だった。神官達の争いには興味がない。少年はある理由で壺を手に入れようとしていた。
少年は、女神に恋をしていた。
やがて壺を盗み、少年は逃げた。そのうちに、何千の兵が、少年を迫っていた。しかし愛する女神のため、必死に壺を守り、生き逃げてきた。少年には召還の方法は知らなかった。
しかし少年は、ある神官同士で結んだ同盟の兵に取り囲まれた。無数の兵が、無数の刃を煌めかせ、無数の矢を輝かせる。そのとき、壺が開き、女神が現れた。女神は憤慨していた。何のために争いをしているの?その争いで傷つく人間がどれだけいると思っているの?それでも、争いは終わりそうにない。女神は破壊へと出た。
天変地異以来の、心の底から沸く恐怖が人々を包んだ。
マグマが吹き荒れ、陸が海と化し、海が山となる。やがて穏やかなる姿で、街と大陸が残った。女神ももちろん理解している。全ての人々が争いを求めてはいないのを。手加減をし、人々を生き残らせた。人々は女神と共に街を復興した。
やがて、司祭という形ではなく、王として、あのときの少年・・・・今ではもう青年だが・・・・が、城に住まい、平和のために尽くした。
その後、部屋の天井が見え、自分が居た。目が覚めたんだ。そう思って体を動かそうとするが出来ない、椅子に座って、ベッドに突っ伏した形で、ティララが横で寝ていた。
・・・・・看病をしていたみたいに・・・・・。
ファルが、扉を開け部屋に入ってきて、オレを見てから立ち止まり、出ていってイリスを呼んできた。
そこで聞くとオレは、三日も眠っていたらしい。ディーヴァはとっくに目覚めて、今は、薪割りをしているところだと言っていた。
その間、ティララは、ずっとオレのそばを離れなかったらしい。
ファルは、水くみ、タオルを持って行くなど奔放していたらしい。
あとでディーヴァとティララにもお礼を言っておこう、ファルにありがとうと言った。
しばらくして、ティララも目が覚め、夕飯となった。ティララが起きたとき、彼女は大丈夫!?大丈夫!?と聞いてきたが、もう何ともなかった。部屋に戻ると、一冊の本・・・・『ある女神の物語』を読んだ。内容は、あのときの夢とほぼ同じ内容だった。今までは・・・あの二人はそっくりの人物だったが、今回は、金髪だったし、後ろで髪をまとめて無くて、流していたし、どことなく似ていなかったように思える・・・・・今のティララと。
途中まで読んで、頭が痛くなってきたので、やめておいた。
図書館に預けることにした。
深夜になって、ティララは今度寝たらもう起きないんじゃないのかと不安がっていた。
明日という日がちゃんと来ますように、そういってティララは眠った。
夢を見た。夢の続きを・・・・
あれから何十年か時が経った。
少年はおじいさんになっていた。
あのときの女神は、召還していない。
王は、変わってしまった。昔のような心は無く、今は、漆黒のごとく暗い心をしている。
王は、狂ったように魔神を集め、召還した。
王は、苦言を嫌い、女神を召還しなかった。
王は、奴隷が死んでも、魔神に復活させ、無理矢理働かせた。
王は、兵を大量に集め、そして強化した。
そして・・・・・・・・・・・・・・
女神は、悲しんでいた。
女神は、かつて愛した者が、変わっていく様を見ているのがつらかった。
女神は、かつての王に戻すべく色々言った。
女神は、ついに王に召還されなくなっていた。
だから・・・・・・・・・・・・・・・
悲しいが故に今は眠ろう。今は彼のことを忘れよう。だが再び彼が目の前に現れたら、私のことを忘れていようが、どうであろうが、彼に再び恋をしよう。女神は深い眠りにつくために王の兵を操り、自分がかつていた場所。本来女神が眠っていた洞穴に運ばせた。
潮風から噂を聞いた。王は死んだのだと・・・・・・。奴隷が召還の方法を知り、大量に魔神を召還させ、城に攻撃を仕掛けた。もうすぐ城が落ちるというときに、毒の杯を飲んだのだと、最後に私宛への手紙が残っていたこと、潮風が運んできてくれた。
『初めに、すまない、私はどうかしていたようだ。死に際になって浮かんでくるのはそなたの穏やかに笑う顔だった。そなたは、私に変わってほしくなく、苦言を言っていたのだな。もし、私が、このようなことをした私が、神に許され、生まれ変わることがあるのなら。変わらずそなたを愛せることを願いたい・・・』
知らずのうちに泣いていた。女神も変わらず彼が好きだった。最後に彼が、かつての優しい心を取り戻してくれた。そのことだけでも、胸がいっぱいだった。私は女神、主神に近きところにある者。ならば願おう、再びあの優しい彼が、私の前に姿を現してくれることを、ただ願い続けよう。女神といえども、今の私に出来るのは、それくらいのことだった。
次は、シアワセに、なれますように・・・・・・と。
オレは遅い朝食をとっていた。ティララに「また目覚めないかと思ったよ〜」と文句を言われ、ごめんごめんと謝るのも楽しかった。ファルと外を一緒に歩くのも楽しかった。
ディーヴァに稽古してもらうのも楽しかった。イリスと、武器屋の主と、パブのロックさんと、みんなと過ごす日々は楽しかった。
ファルとティララとディーヴァでパーティを組んで、坑道や古城を散策した。
全てが永遠であってほしかった・・・・・・。
夢を見た。漆黒の中に眠る龍の目覚める夢を・・・・
啼いていた。漆黒の中で、
『オマエハ、コノニンゲンヲ、マコトニ、シンズルコトガ、デキルノカ・・・・・・』
龍の声が聞こえた。
「リト!!」
ファルがオレを起こしていた。かわいらしいパジャマ姿だった。
「みぃ・・・・・怖い夢を見るの・・・・・・ファルの中で龍さんが暴れるの・・・・・」
まさか・・・・・とは思ったが、この言葉で確信できた。
この子が、数百年前に人々を血に沈めた水龍なのだと・・・・・・『龍になった少女』の主人公の少女であるということが・・・・・・・。
「お願い、一緒に来て!!」
ファルはそう言ってオレは、
「仲間だからな」
と余裕に答えた。
ニパァとかわいく笑ってファルは
「うん!!」
そういって二人は、足下に出来た水の渦に飲み込まれ、その場から消えていった。
・・・・・・床には水滴が少し残っていた。