「Nepheshel -霧の中の伝承歌-」

著者:皆川 新茶

★プロローグ
 ★数々の邂逅
  ★光の面影と、無邪気な悪戯屋達
   ★蒼の少女
    ★逝く人、残る人
     ★家族
      ★破滅への足音
       ★風に語らう

『破滅への足音』

 残ったのは、静寂。
「行っちゃったね、リト」
「ああ。ここからは、また二人だ」
 ファルの声に、リトが返す。寂しいの、そうだな、と単純に言葉を交わし合い、二人は再び石の檻の中を歩き始めた。互いに繋ぐその手に、確かな温もりを感じながら。
 そこに、言葉は要らない。


 一方、町の酒場にて。
「ポロス、それは本当か?」
「だとしたら、とっても大変なんじゃないの?」
 重々しい表情をしながら、イアソンが学者肌の友人へと訊ねた。それに続くように、グレイスも。
「ええ、間違いありません」
 本から目を離し、ポロスがこの場にいる全ての冒険者に向けて、深刻な表情で告げた。
「魔物の数が、この数ヶ月で異様に増えています」
「特に海岸洞穴なんか酷いもんだ。この前なんか、マーメイドが群れで襲ってきたぞ。ったく、あれがセイレーンだったら、お陀仏だったぜ」
 そう愚痴るのは、ミルコ。グレイスも、心配そうに彼を見つめている。その視線の先には、ところどころ赤茶色にくすんだ包帯。彼女の視線に気付いたミルコが、心配するなとだけ、彼女に言った。だが、彼女の瞳から、不安の色は消えなかった。
 そして、『彼女』もそこに帰還した。
「おかしいのは海岸洞穴だけじゃないわよ」
「ハティ!」
 イアソンが呼びかけながら、立ち上がった。他の冒険者達も、一斉にドアへと振り向く。ゲートから無事帰還した彼女は、折れた弓と真新しいメイスを抱いて、無言で席についた。いつものテーブルの向かいに彼が来ていない事に気付き、彼女は溜息を付いた。
「お前、それは、シアとユリアンの」
 イアソンはしばらく、確かめるように彼女の持つ武器を眺めていたが、やがてぽつり呟くように訊ねた。
「そうよ。いー兄さん、神殿がどんな状態だったか、とりあえず調べてきたわ」
 彼の言葉を全て聞かないうちに、ハティはぶっきらぼうに返す。冒険者達の顔に、悲しみと深い落胆の色が浮かぶ。かすかに震えたグレッグの頭に、タルバインが手を乗せ、グレイスがその小さな身体を抱き寄せた。彼のその目には、涙がじわりと滲んでいた。
「説明してくれる、ポロス。あの魔女の大群は何? グリフォンの群れは何? あんな所、もう初心者の行ける場所じゃないわよ! 一体、何が!」
「ええと、今説明しますから、落ち着いてください」
 盛大に怒鳴られる前に、おろおろと困ったように頬に手を当てながら、ポロスが何とか彼女を制そうと理由を探した。
「ハティさんには、ビンセントさんにも伝えてもらわなければなりませんから」
 策は成功。彼女はそれで沈黙し、ポロスはようやく語り出す事が出来るようになった。
 そして、彼は語る。
「私の持論はこうです」


「ね、リト」
 ずっと手の温もりを黙って噛み締めていた二人だったが、ファルのこの呼びかけで、再びその口が動き始めた。温かみがかすかにぼやけたけれど、それを補うかのように、言葉に色彩が戻っていく。暗い石の檻を、まばゆく照らしそうなほどに。
「あのね、さっきのことば。ファル、とっても嬉しかったの。ありがと、なの」
 ファルの言葉へ、今度はリトが照れ臭そうにしながらも応える。
「ありがとうだなんて、お礼を言うのはこっちの方なのに」
「ううん、本当に嬉しかったの。本当に、ファル、嬉しかったの」
 リトの言葉を彼女らしくもなく、少し強引に遮って。
「だからねっ、リト。リトがね、他の魔神の力が必要なら、ファル、壺の中で待ってるの」
「ファル」
「でもね、でもね、リト。時々でいいから、ファルも呼んでね?」
 リトの呼びかけは、彼女の真摯な――けれど少し悲しげな――瞳の光と、暗がりの中に吸い込まれていった。
 再び訪れる、沈思の時。


 場所は、郊外への道。
「ハティねーちゃん!」
 グレッグは、帰路に付こうとしたハティを呼び止めた。その赤茶色の瞳を、不安に揺らしながら。ハティが、髪と同じ金色の瞳で見つめ返す。気高い彼女は、怯えるような彼にさえ、屈んで視線を合わせる事はしない。
「あの、ビンセントにーちゃんは元気?」
 グレッグは鋭い眼光の彼女を見上げながら、おずおずと問い掛ける。ハティは、小さく鼻を鳴らして、答えた。
「心配しなくても、いつもの発作よ。何日か安静にしていれば、ある程度は治るわ」
「でも、でも、ハティねーちゃん。ビンセントにーちゃん、最近寝込む日が多くなっているから、ボク、心配で」
 見上げたまま、必死にグレッグは身振りを加え、彼女に言葉を伝えていく。先の事で溢れかけた涙が、本当に溢れようと目じりから他の仲間を押し出す。
「……」
 グレッグは、無言のハティに頭をわしわしと撫でられた。彼の頭に固いけれども温かな手の感触が伝わってきて、また涙がこぼれた。
「馬鹿ね、そんなに心配なら、遊びに来て確かめればいいわ。その方が、あいつも喜ぶから」
「うん、うん! 絶対、行く! ファルも連れて行くからね! ビンセントにーちゃんの作るお菓子、とっても美味しいから!」
 まるで大輪の花が咲いたように、彼は笑った。


 沈思は消えうせた。
「俺は、魔神の力を求めている」
 答えを胸の中で整頓したリトが、石版の掲げられた通路をファルと歩きながら、言う。ファルは、言葉を挟む事もなく、黙ったまま聞いている。
「そういう意味で俺は、これからもファルにも協力してほしい」
 これは、魔神を求める者にとって、最も当たり前な答え。彼女も、何も応答せず、少し俯き加減で進む。
「けれど、それ以上に」
 彼女から手を立ち止まって、リトは付け足した。ファルが数歩先に進んで、リトの顔を見上げる。
「ファルには、みんなと一緒に遊んでいて欲しいんだ。見ているだけで、とても幸せになれるから」
 リトの言葉に返って来たのは、
「ありがと、なの」
 小さな、小さな、けれど泣き出してしまいそうな程強い、感謝の言葉。
 やはり、言葉は不要になった。


 心安らぐ薬草香の匂いが、優しく鼻を撫でていく部屋。
 がちゃりと音を立ててノブを回し、イアソンはその部屋へと足を踏み入れた。その腕に、大きな花束を抱えて。
「よお、ビンセント。調子は、どうだ?」
 ベッドに横たわっていた友人は、来訪者に目を開け、首を動かす。彼はすぐにイアソンの顔を確認し、微笑んで迎えてくれた。
「ああ、イアソン……、何だか君と会うのも随分久しぶりのような気がするよ」
 同居人であるハティのたくましい小麦色の肌や身体とは対照的に、雪を彷彿とさせるほどに肌は白く、線も細い。だが、イアソンが思うほどには、幸いにして彼はやつれていなかった。
「そうだ、お茶淹れてくるね。それとも、お酒がいい?」
 ほんの少しくたびれたような雰囲気はあったけれども、ビンセントはそれを気にかける事もなくゆっくりと身を起こした。
「別に俺の事は気にするな。まだ熱があるなら、寝てろよ」
 持ってきた花束を花瓶に放り込んで、イアソンは椅子に、どかっと腰掛ける。それから彼は、にっと笑って再びベッドに沈んだ病床の友に呼びかけた。
「かなり良くなったみたいだな」
「うん、明日には復帰出来そう。みんなのために何か美味しい差し入れ、作っていかなくちゃ」
 そうか、と笑みを大きくして、イアソンは窓へと目をやった。
 窓の外は、ほんの少し薄暗いこの部屋と比べると、驚くほどにまぶしく、美しく見えた。今すぐこんな辛気臭い所から外に出て、潮風混じりの空気を胸一杯に吸い込みたい。そんな衝動に駆られるほどに。
 外を見て、無性に悲しくなったイアソンの目が、目を潰さんばかりの光に細められた。
「何か、あったんだね」
 自分の様子を窺っていたらしい背中側の友人の口から、独り言のように呟かれた一言に、イアソンはどきりとした。
「何がだよ」
「シアとユリアンが亡くなった。そうでしょう?」
 言ってもいない言葉を、ビンセントがぴたりと言い当てると、イアソンはますますどきりとした。
「お、おいっ、勝手に読むなよ!」
「ごめん、聞くつもりは無かったけれど、『聞こえ』てしまったんだ」
 困り顔のイアソンが窓から視点を戻してみれば、それを待っていたかのように―人よりも何故か長い―耳を片方くいと引っ張って、ビンセントは寂しげに笑っていた。
 何故か罪悪感に駆られた茶髪の冒険者は、言葉に詰まりながらも、ほんの少し慌てて返した。
「ああ、いや、そこまで俺は気にしていないが、辛くないのか?」
「辛くないといえば、嘘になってしまうかな。あの二人はまだ駆け出したばかりだったから」
 今度はビンセントが窓の向こう側を見て、溜息を付いた。すぐにその溜息は、空気に溶け込むように消えていったけれど、哀しげな空気はしばらくの間、重く部屋を覆った。二人は、しばし言うべき言葉をそれぞれの胸の中に探すため、その空気の中で閉口した。
 そうして、話は物悲しい雰囲気の中で、紡がれ始めた。
「発作の間隔、短くなっていないか、ビンセント」
「そうだね。そろそろ本当に、限界なのかな」
 淡々と、手短に投げては受け、投げては受ける、言葉の掛け合い。
「諦めるな。必ず、何とかなるから」
「ねえ、イアソン。最近思うのだけれど、僕は君とハティの重荷になってはいないかな」
 互いに昔からの馴染みだからこそ出来る、端的な、けれど深い言葉のやり取り。
「馬鹿言え、ダチが死ぬほど苦しんでるってのに、放っておけるかよ」
「けれど、君もハティも、そう言ってずるずると漆黒の迷宮へ行く時を延ばしている。僕のせいで」
 この冒険者の一言に、突如、イアソンが大きく踏み込んだ。
「お前のせいじゃねえよ」
「じゃあ、三人の『約束』のせい?」
 ビンセントが受け止めて、素早く、冷たく切り返す。言葉を受け止めきれなかったイアソンは、言い返せず沈痛な表情を浮かべ、頭を垂れて沈黙してしまった。
 嫌な沈黙が、醜く横たわってから、病床の青年が先に口を開いた。
「ごめんね。僕は、君に対してあまりに無力だ」
 悲しみにくれる友達に対し、病床の冒険者が嘆くように天井を仰いで目を閉じると、槍使いの冒険者はいつになく弱々しい声で言った。
「頼む、頼むから謝らないでくれ。お前のせいじゃないんだ」
「イアソン、約束に気兼ねする必要はないんだよ。このままだと、他の誰かが君を抜き去って、先に真実にたどり着いてしまう」
 イアソンは、そこでようやく顔を上げた。彼の目の先にいた友人は、いつの間にか悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
 けれど、この熟達した最強の冒険者は、病床の今なお自分を果敢に追随してくる心優しい友人が、無理をしているように思えてならなかった。
 だからかもしれない。負い目を感じて、まるで泣いているような笑い顔をしてしまったのは。
「ったく、こいつはよ。また俺の事ばかり気遣いやがって」
 こんな情けない笑顔を見せながら、イアソンは横たわったままの友人の肩を乱暴に叩いた。
 がちゃり。
 それと同時に、玄関のドアの開いた音がした。それは、間違いなくイアソンの無二の親友が愛する彼女の、荒っぽい帰還の音だった。
「あ、ハティだ。しまった、料理冷えちゃってないかな」
「出来てるなら充分じゃねえかよ」
 この手際の良い主夫のような冒険者に、イアソンが情けない笑みを苦笑いにすりかえると、ビンセントは照れ臭そうに微笑んだ。
「でも、やっぱりお前は、俺の弟だな」
 何事につけても、他人第一なのだ。この男は。花束を持ってきた来訪者は、改めて思った。


「それじゃ、ファル。少し待っていてくれ」
 青い髪の少女を祭壇の下に待たせて、リトは階段を一歩、また一歩、確かに踏みしめながら登っていく。
 何故かは解らない。けれど、向こうで待っている誰かがいる。それは確かだと、緋色の髪の青年は感じていた。
 ふと、リトの脳裏に輝く光が現れて、去っていった。待っているのは、その光の主であろうか。もしくは違う別の誰かで、けれど心強い友人になってくれる魔神だろうか。それとも。とリトはこの先に待ち受ける者が何者であるか、思いを馳せながら階段を登った。
 たいした間もなく、祭壇が見えてきた。石が隙間なく埋め尽くされた平面の向こうに、それも見えていた。
 けれどこの厳かな雰囲気の中、リトは焦る事なく、堂々と階段を登る。
 耳鳴りがするほどに静かな場所に、雑音は一つも存在出来ない。ぴりぴりと緊張した空気で、心臓も高鳴る。
 そうして、えも言われぬ沈黙の壁を越えた先に、それは厳然として在った。
「この壺は」
 言いかけて、リトは言葉を飲み込んだ。自分の意思とは無関係に、駆け抜けては去っていく記憶の断片に。思わず彼は伸ばしかけた手を引っ込めて、その手で額と目を覆った。
「リト!?」
 祭壇下からのファルの呼び声が、一気に遠ざかる。
 リトはまず直感した。この壺は、光をもたらす『彼女』のものではないと。
 次に彼は思った。しかしこの壺にも、しっかりと見覚えがあると。
 最後に彼は感じた。この壺の主は、『彼女』とは対照的な力を持った者だと。
(何故、俺はこんな事を知っている)
 断片が過ぎ去った直後にリトはすぐさま自問したが、いつまで経っても自答は出来なかった。
 壺を開ける手に、ためらいが生まれる。だが、リトはもはや退けないと感じた。ここまで来て、引き下がる事など出来るはずもなかった。
(俺は真実を求めるために、力が必要なんだ)
 その手が、壺の蓋に掛かる。後はほんの少し、至って簡易な動作をすれば、壺の中の者が放たれる。
 リトは一度だけ目を閉じて、息を付き、目を開けた。強く明確な意思を、その瞳に鈍く輝かせて。
(力を、貸してくれ!)
 掴んだ壺の蓋を、彼は掴んで勢い良く開けた。刹那に溢れ出す、黒い世界。広がっていく黒に、リトは意を決して事無く飛び込んだ。

 彼は、目覚めているにも関わらず、暗黒の幻想を見た。
 黒い世界。高貴な黒を湛えた壺。壺から現れた、黒い影。そして、リト。
 そこには祭壇もなければ、先の世界もなく、距離や空間すらもない。
 この三つしかない場所で、リトは影を見つめ、影はそのリトに応えるかのように、気高く呼びかけた。
「我が名はディーヴァ。我が壺を開け放ったのは、お前か!」
 彼の目から、迷いなどとうに消えうせていた。その目と同等に、声にも恐れと困惑も存在しなかった。
「そうだ、俺はお前の力を求めて壺を開けた者だ!」
 衝撃を受ける事も、気圧される事もなく、リトは呼び声を返す。臆する事のない真っ直ぐな眼差しが、影を捉える。
 すると影はどうした事か、この漆黒の瞳の青年をしばらく見つめ、赤く光る眼を細くしたのだった。常人ならば狂わんばかりの恐怖におののくような紅の光だったが、リトは恐れを感じはしなかった。むしろ、別の―しかも、どちらかと言えば良い―感情が彼の心の中で渦巻いていたのだが、影がこの青年の心情を察する事はなかった。
 黒い瞳と赤い目。視線がぐるぐると絡み合う。お互いの内心を探り、確かめるかのように。
「む、お前は……、そうか、そういう事か」
 不意に影は、リトを見て何かに気付いたらしく、そんな事を呟いた。もちろん、リトには何の事だかさっぱり理解出来なかったが、その影が、懐旧の情の入り混じった瞳でかすかに笑っていた事には気付く事が出来た。
 これも運命か。
 はたとリトは、どうしてか影がそう言ったのではないかと思った。それは声ではなく、もっと超越した何かで呟いたのではないかと。
「おい、お前」
 またも影は威圧を含んだ声で呼びかけた。リトも、すぐさま影へと注意を戻す。そうして、すぐに気をぴんと張り詰めさせた。魔神の中には、時として壺を開けた者に死をもたらす、危険なものもいると知っていたからだ。彼はまだ、油断してはいなかった。
 だが、この影はリトの予想を裏切るかのように、ただ問い掛けるだけだった。
「もしお前が私の存在意義を解しているとするならば、力を貸してやろう」 
 問いは、一言。しかしながら、時として最も難しい問い。
 特に、この島の中ではこれ以上に無いほどに難しい問いかけだった。
「私は何だ」
 影は重々しく、この影自身の存在意義を問うてきたのだ。
 自分が何者かという影の問いに、リトは一瞬だけ思案して、即座に応じてみせる。心と記憶のままに答えを導いて。
 彼の脳裏にはっきりと浮かんだのは、通廊の石版の数々と、それに記されていた文字。懐かしい言語で書かれた文字を頭の中で反芻し、彼は手早く簡潔にまとめ上げる。
 立ち向かう勇気を持った彼は、まとめるや否や、間違う事なく言い放った。彼女の淡々とした問いと同じほどに、毅然とした態度で。
「お前は終わらせる者であると同時に、維持する者だ」
 はっきりとリトは言い放つ。と、同時に、影は忽然とその姿を表した。
 暗がりから姿を表した影の正体は、いつの間にか壺の上から、リトのすぐ前に立っていた。
 凛とした、けれどどこかあどけない顔立ちは少女のもの。紅玉の眼光は鋭く、敵に対して弱さなど見せはしない、この黒の世界と同じ高貴さをも秘めている。三つ編みを虚無の闇に揺らしながら、影であった彼女は真っ直ぐと見つめるリトを、鋭い眼差しで見返し、そのまま言った。
「そうだった。お前には、愚問だったな」
 どこな懐かしむような瞳でリトに目を向ける、存在自体が刃のような少女。これこそが維持神であり、闇の闘神と謳われた、魔神の麗しい姿だった。
「よかろう。契約に応じる」
 差し出された手を、リトが拒むはずもなかった。己が手を伸ばし、その手をしっかりと掴んで、握手を交わした。

 そこで幻想は、泡が弾けるように終わった。
 何をするでもなく、リトは振り向く。それまで気付かなかった暗き万色の向こうに、出口の光。そして、そこへ一直線に向かう古ぼけた橋。さして長く神殿にはいなかったのに、外界の光が妙に懐かしい。リトはそう思った。
 壺へと目を落とし、彼は先の出来事を思い返した。幻想は夢だったのか、はたまた現実を超越した現実だったのか、今となっては知る術などなかったが、契約を取り交わす事に成功した証ならば、見下ろすリトの視線の先に一つだけあった。
「……」
 神殿の階段、その下に、ファルの姿はなく。
 その代わりリトは、持ち歩いていた壺から、干渉を避けるための防衛反応で、ねぐらへと戻ったファルの気配を感じたのだった。

 リトは、こうして二人目の心強い旅の道連れを、神殿で得た勇気によって勝ち得たのだった。

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